「事実婚」体外受精、結婚制度を尊重すべきだ


 日本産科婦人科学会(日産婦)がこれまで夫婦に限定してきた体外受精の対象を、婚姻届を出していない、いわゆる「事実婚」のカップルにまで拡大する方針だという。

 婚外子やシングルマザーを増やして、結婚・家族制度の混乱を助長する方針転換としか言いようがない。4月か6月の総会で正式決定する見通しだが、再考を促したい。

民法改正受け方針転換

 卵子と精子を体外で人工授精させ、受精卵を子宮内に戻す体外受精について、日産婦は自主ルールで対象を結婚した夫婦に限ってきた。これを変更するのは、婚外子の遺産相続分を法律上の夫婦の子供(嫡出子)の半分とした民法の規定を、最高裁判所が「憲法違反」とする判断を出した結果、民法が昨年12月に改正されたからだという。

 日産婦がこれまで体外受精を夫婦に限ってきたのは、子供に法的な不利益が及ぶという判断からだった。しかし、民法改正により、嫡出子と婚外子の相続格差がなくなったことで、婚外子が生まれても不利益は被らなくなったという。

 だが、この判断には強い違和感を覚える。まず、最高裁判決は法律婚を否定したものではないのだから、学会は当然、法律婚を重視する立場に立つべきである。それなのに、体外受精の対象を未婚カップルにまで拡大するのは、法律婚を軽視して家族制度を破壊する行為だと言わざるを得ない。

夫婦を核とした家庭は社会の基盤をなすものだ。社会の安定と発展に寄与すべき学会が、その立場と矛盾する判断をするとは信じ難いことだ。

 また、民法改正で体外受精の対象を夫婦に限定する理由がなくなったというが、子供の幸・不幸は法律上の利益、不利益だけで決まるものではないことを忘れているのではないか。

 子供に対する親の責任感の強弱を判断するのは簡単ではない。しかし一般的には、男女が正式な結婚を選択することは、将来生まれてくる子供への責任感の表れである。これは、子供を生むための最低限の条件と言える。それをクリアしないカップルの体外受精を認める判断の根底には、法律上の利益さえあれば子供は幸福だと考える偏った価値観がうかがえる。

 子供にとって、両親が愛し合い、その愛がいつまでも変わらぬこと以上に大切なことはない。事実婚カップルの関係は、法律上の夫婦以上に破綻しやすいものであることは説明を要しないだろう。さらには、体外受精を希望する男女が本当に事実婚カップルかどうかを判断するのは困難だろう。配偶者がいながら、それ以外の異性との間で体外受精を行うケースが出てくる恐れもある。

社会の混乱につながる

 晩婚化で妊娠しにくい女性が増えたことで、現在ほぼ32人に1人が体外受精で生まれている。少子化が深刻化する中、事実婚カップルの体外受精解禁によって、子供の数が増えることを期待する向きもあるが、婚外子を増やして日本の人口減少を抑えようというのは論外だ。家族崩壊ひいては社会の混乱というつけを残すだけである。

(1月11日付社説)