食品農薬混入の被害拡大阻止に全力挙げよ
マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズ群馬工場(群馬県大泉町)製の冷凍食品から農薬マラチオンが検出された問題は、全国で回収対象の食品を食べ体調不良を訴える人が増えて深刻化している。被害の拡大阻止に同社と行政当局は全力を挙げるべきだ。
基準値の260万倍
マラチオンが見つかったのは、群馬工場で製造されたピザ、コロッケ、フライの各商品。8日までに、全国で同工場製の商品を食べた少なくとも1000人を超える男女が嘔吐や下痢、発熱、目まい、腹痛などの症状を訴えた。大阪府の生後9カ月の男児はコーンクリームコロッケの中身を食べて嘔吐、下痢の症状があり、6日に入院した。
これまでに回収した商品のうちコロッケの衣からは国の残留農薬基準値の260万倍に当たる2万6000ppmを検出。生命に別条はない数値だが、子供が一口食べただけで健康被害の出る恐れもある。
何者かが工場内で意図的に農薬を混入した疑いもある。捜査当局は業務妨害より重い罰則の流通食品毒物混入防止法違反罪の適用も視野に入れているが、徹底した捜査が必要だ。
これまでのところ、包装後の商品に農薬が混入された形跡は見つかっていない。アクリフーズによると群馬工場の従業員は約300人。工場での作業時、ポケットのない白衣を着ており、私物の持ち込みは禁止されている上、従業員が1人で作業に当たることはない。
また農薬が検出された3種類の商品は別々のラインで製造され、それぞれの担当従業員以外が入室することはないが、その後の包装は一つの部屋で行われているという。これらのことから、製造後から包装までの過程で、内部の事情に詳しい者が隙を見て農薬を混入した疑いを拭えない。
一方、同社は8日、消費者庁に対する説明で「複数の製造ラインの商品について苦情があり対応が遅れた」と述べ、食品の製造を手掛ける企業として危機管理の重要性への意識が低かったことを認めた。
昨年11月中旬から「石油、機械油のような臭いがする」という苦情が20件も寄せられたが、残留農薬検査を外部に依頼したのは、苦情があってから1カ月たつ12月17日。その間、同社内で調査したが、臭いは一過性のものということで済まされていた。同27日にマラチオンの検出結果が出たが、混入が公表されたのはさらにその2日後、同29日だった。
これでは消費者の健康を第一に考えているとはとても言えまい。今日、企業はコンプライアンスを行動指針としているが、外部からの苦情に画一的でその場限りの対応に終始しやすい。その結果、消費者の声が集約されにくくなり、製造、製品管理に生かされず、時に深刻な事態を招いている。
危機管理の要諦把握を
これは食品に限らず、自動車や家電メーカーでも同じような不祥事が繰り返され、裁判沙汰にもなっている。経営者は危機管理の要諦をしっかり把握し、常に消費者の生命と安全を守る方策を立て実行すべきだ。
(1月10日付社説)