臨床データ改竄の再発防止へ真相の徹底究明を


 大手製薬会社ノバルティスファーマの高血圧治療薬ディオバン(一般名バルサルタン)の臨床研究データ改竄(かいざん)問題で、厚生労働省は、不正なデータをディオバンの宣伝に利用した疑いがあるとして、薬事法違反(誇大広告)容疑で同社などを東京地検に刑事告発した。

 再発防止への取り組みを進めるためにも、捜査当局には真相の徹底究明を求めたい。

 製薬会社を刑事告発

 厚労省によると、ノ社は2011~12年、データが改竄された東京慈恵会医大と京都府立医大の臨床試験結果の論文に基づき、ディオバンは脳卒中や狭心症を防ぐ効果が他の薬より優れているなどと誇大に宣伝した疑いがある。

 これが事実だとすれば、患者の信頼を裏切る行為であり、関係者は厳しく処罰されなければならない。

 ノ社はこれまで、データを改竄したと指摘される元社員の関与や同社からの指示を否定している。厚労省は改竄を行った人物は特定せず、個人の容疑者名は不詳とした。誇大広告容疑のみでの刑事告発は前例がないという。

 厚労省は立ち入り調査も検討したが、ノ社が資料提出の要請や事情聴取に応じているために見送った。行政調査には限界があり、強制力を伴う捜査が求められるのは当然だ。

 薬事法は医薬品などについて誇大な広告を出すことを禁じており、違反すると2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。問題発覚から半年以上が経過し、困難も予想されるが、捜査当局は全容解明に努めてほしい。ノ社も全面的に協力すべきだ。

 医療情報会社によると、昨年度のディオバンの売り上げは1060億円で、全ての医療用医薬品の中で2番目に売れている薬だ。しかし、これが改竄されたデータによるものであれば、製薬企業間の公正な競争が阻害されたばかりでなく、患者や健康保険が損害を受けたことにもなる。

 この問題では、ノ社だけでなく大学側の責任も問われなければならない。ディオバンの臨床研究においては、データ解析を元社員に丸投げしていたことが明らかになっている。

 ノ社は02~12年、臨床研究が行われた5大学に計11億3000万円の奨学寄付金を支払っている。データ改竄はその見返りだった疑いもある。

 功績を挙げたい研究者と商品の売り上げを伸ばしたい製薬会社の利害が一致し、今回の問題が起きたのであれば、それは産学の癒着であり到底許されるものではない。

 もちろん、優れた医薬品を開発するには産学の連携が必要だろう。しかし、両者の馴れ合いによって研究の公正さが置き去りにされることがあってはならない。協力体制の透明性を確保し、健全な産学関係を築くための方策が求められる。

 患者の利益を第一に

 医療関係者が第一に考えなければならないのは患者の利益のはずだ。再発を防止し、製薬会社や研究者が患者の信頼を回復するには、まずこうした原点に立ち返らなければならない。

(1月12日付社説)