北方領土交渉、不法占拠を強く非難せよ


 安倍晋三首相はロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談し、北方領土問題を含む平和条約締結交渉について「未来志向で作業する」ことを確認したが、具体的な進展は見られなかった。

強硬姿勢示すロシア

 両首脳の会談は6月以来で通算27回目。昨年11月の会談で、平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を進めることで一致し、両国外相を交渉責任者に据えて協議を重ねてきた。

 だが、領土の主権や歴史認識をめぐる溝は埋まっていない。ロシアは「第2次大戦の結果、北方領土がロシア領になった」と述べるなど領土問題で強硬な姿勢を示し続けている。先月には、メドベージェフ首相が4回目の択捉島訪問を強行した。

 北方領土は日本固有の領土である。旧ソ連は第2次大戦末期の1945年8月9日、当時まだ有効だった日ソ中立条約を破って対日参戦し、日本のポツダム宣言受諾後に北方四島を全て占領した。これ以来、今日までロシアによる不法占拠が続いている。これを正当化するような言動は断じて容認できない。

 戦後70年以上にわたり日露間の懸案となってきた北方領土問題を何とか動かしたいという安倍首相の気持ちは理解できる。日ソ共同宣言を基礎に交渉を進める方針も、一日も早い解決を目指したものだろう。

 しかし、ロシアは2島返還にさえ応じようとしていない。プーチン氏は会談前、ロシア企業が色丹島に開設した大規模水産加工場の従業員とビデオ中継で対話して稼働を祝福するなど、2島の不法占拠を継続するかのような態度に出ている。

 ロシアでは今月8日に統一地方選があり、北方領土を事実上管轄する極東サハリン州でも知事選が行われる。地方選で与党系候補の苦戦が伝えられる中、プーチン氏には選挙で工場稼働をアピールする狙いもあろう。

 プーチン政権は北方領土の軍事拠点化を進めている。ロシアにとって、千島列島・北方四島は原子力潜水艦と水上艦隊が自由に太平洋にアクセスする要衝であり、他国を寄せ付けない防衛ラインでもある。国後、択捉両島には北海道東部まで射程に入れる地対艦ミサイルが配備されている。

 プーチン氏が懸念しているのは、平和条約締結後に2島を引き渡した場合、米軍基地が設置されることだ。だが、北方領土は日本の領土であり、プーチン氏の不安が領土を返さなくてもいい理由にはなるまい。

 会談で両首脳は、ロシアの先進7カ国首脳会議(G7サミット)復帰についても意見を交わした。

 しかし、民主主義や法の支配などの価値観を共有するG7が、北方領土の不法占拠やウクライナ南部クリミア半島の併合など国際法を無視するロシアの復帰を認めれば、存在意義が失われるのではないか。

4島返還の原則に返れ

 ロシアに対しては、北方領土の不法占拠を強く非難し、日本の立場を明確にすべきだ。安倍首相は4島返還の原則に立ち返る必要がある。