ホルムズ海峡、安全確保は日本の死活的国益
トランプ米大統領が、イランとの緊張が非常に高まっているホルムズ海峡の安全確保について、中東地域の産油国からの原油輸入に大きく依存している日本などに「自国の船舶を自ら防衛すべきだ」とツイッターで主張した。
これをトランプ氏の気まぐれ的な発言と捉えるべきでない。近い将来、日本の安全保障をめぐる各分野で直面する事態であり、いかに対応するかを早急に検討し、具体策に踏み出す必要がある。
米国の力が相対的に
トランプ氏は「なぜ米国が代償なしに他国のために輸送路を守っているのか」「米国は最大のエネルギー生産国になっており(ホルムズ海峡に)とどまる必要さえない」とも述べた。
冷戦終結後の国際社会の特徴は、核大国である米ソ両国の対立がなくなったことによって、通常兵器を用いた武力紛争が起こりやすくなっていることだ。それに加え、米国の経済的、軍事的な力が国際社会の中で相対的なものになる一方、中国が国力・軍事力の拡大で世界の覇権を握ろうとする動きが顕在化している状況にある。
この事態に日本はどう対応するかが最重大課題になっているが、現状は「日米同盟の深化」のみが課題となっている。対米全面依存体制は変わっていない。憲法9条を大前提とした解釈論だけで、国家安全保障上からの議論は皆無に近い。
憲法改正を積極的に推進する立場の安倍晋三首相も、9条の規定はそのままにして「自衛隊」の文言を追加することでお茶を濁そうとしている。憲法をはじめとする法は国家運営のための手段にすぎないにもかかわらずである。
冷戦下のように、米国がいつまでも日本の平和や貿易に不可欠なシーレーン(海上交通路)の安全を確保してくれる保証はない。オバマ前米大統領は「米国は世界の警察官をやめる」と宣言した。これは単に一政権の政策と誤解してはならない。米国の国力低下、国際社会構造の変化を踏まえた政策である。これは今後の米政権も採用せざるを得ない。
特に「米国第一主義」を唱えているトランプ氏は、米国の国益に直接結び付かない対応を減らしている。ここで留意すべきは、米国に将来困難をもたらすような対外政策の採用を禁じた「建国の父」の教えに沿ったものである点だ。従って、米国民の支持も得やすい政策である。
ホルムズ海峡の安全維持のみならず、中国による南シナ海の軍事基地化への対応、インド洋の安全確保も、日本にとって最重要課題である。資源小国、防衛立国が宿命の日本にとって、これらシーレーンの安全は死活的国益である。それにもかかわらず、例えば最も重要なシーレーンの南シナ海、インド洋の安全をいかに守るかについて、国民のみならず政党もあまりにも無関心である。
必要なのは政策論議
日本が輸入する原油のうちホルムズ海峡経由のものは約80%に達している。これが途絶すれば日本は大混乱に陥るであろう。必要なのは憲法解釈論議でなく、政策論議である。