貴ノ岩が暴力、今度は加害者とは情けない
大相撲の幕内貴ノ岩が付け人に暴力を振るった。
元横綱日馬富士による傷害事件の被害者が、今度は暴行を働く側になったことは情けない限りだ。
付け人を平手や拳で殴る
日本相撲協会によると、貴ノ岩は冬巡業で訪れた福岡県行橋市の宿舎で付け人を務める力士の頬などを平手や拳で4~5発殴った。付け人には大きな外傷はないが、顔は腫れているという。殴った理由は「忘れ物の言い訳をしたから」と説明した。
貴ノ岩は昨年10月の秋巡業中、同じモンゴル出身の日馬富士から酒席で暴行を受けて負傷した。被害者の心身の苦痛はよく分かるはずだ。それにもかかわらず、今度は自身が他の力士に暴力を振るったことに心底あきれる。
この事件では日馬富士が引退したほか、貴ノ岩の師匠だった貴乃花親方(元横綱)が今年10月、相撲協会を退職した。退職の理由として、事件をめぐって内閣府に提出した告発状の内容を事実無根と認めるように協会から有形、無形の要請を受け続けたことを挙げるなど、相撲界を大きく揺るがす事態となった。貴ノ岩は事件から何を学んだのかと言いたくなる。
貴乃花親方の退職で、貴ノ岩ら貴乃花部屋の力士は千賀ノ浦部屋へ転籍した。11月の九州場所では弟弟子の小結貴景勝が初優勝を遂げただけに、貴ノ岩の暴力に対する相撲ファンの落胆は大きい。
相撲協会の第三者機関、暴力問題再発防止検討委員会は10月に公表した報告書の中で、力士や親方ら協会員への聞き取りで暴力が残っていると指摘。相撲部屋内での兄弟子から弟弟子への行為がほとんどで、師匠らに報告されることはまれだとしている。
2007年6月には、時津風部屋の序ノ口力士が兄弟子らに暴行を受け死亡する事件が起きた。報告書では、この事件に対する反省が十分に生かされなかったと言及。再発防止策として、暴力を防げなかった親方の資格剥奪など罰則規定の導入も提言した。
報告を受け、相撲協会は今年10月に「いかなる暴力も許さない」などの文言から成る暴力決別宣言を発表した。しかし今回の貴ノ岩の問題を見る限り、暴力根絶には程遠いと言わざるを得ない。
八角理事長(元横綱北勝海)は3月の理事長改選で再選された際に「まずは暴力問題の根絶に取り組むことが第一課題であると強く認識している」と語っている。
相撲界に指導や教育のための暴力は許容されるという考え方があるのだとすれば、意識改革の徹底が必要だ。
今度こそ根絶につなげよ
貴ノ岩は東京・両国国技館で鏡山危機管理部長(元関脇多賀竜)らから事情聴取を受け、暴力を認めて謝罪。相撲協会は冬巡業の休場と都内の千賀ノ浦部屋での謹慎を言い渡した。付け人からも事情を聴いた上で、理事会で処分を検討するという。
貴ノ岩への厳正な対処が求められるのは当然だが、今度こそ暴力根絶につなげなければならない。