伊方差し止め、不適切で受け入れ難い決定
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを広島市の住民らが求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁は「阿蘇の過去の噴火で火砕流が到達した可能性は十分小さいと評価できず、原発の立地は認められない」と判断し、来年9月末まで運転差し止めを命じる決定を出した。
東京電力福島第1原発事故の後、仮処分で原発の運転を止める司法判断は、高裁段階では初めてとなる。
高裁段階では初めて
出力89万㌔㍗の伊方3号機は昨年8月に再稼働し、定期検査のため今年10月に停止した。仮処分決定は直ちに効力が生じるため、四国電は決定が覆らない限り、検査が終わっても運転を再開できない。
運転できない場合、火力発電に必要な燃料費などで月に約35億円の損失が出るという。電気料金が値上げされれば、企業や家計の負担も増えよう。来年1月の発送電再開を目指していた四国電は、異議を申し立てる方針だ。
広島高裁の野々上友之裁判長は、伊方原発から約130㌔離れた阿蘇カルデラ(熊本県)で約9万年前に起きた巨大噴火を検討。その結果、四国電が実施した地質調査やシミュレーションでは、火砕流が敷地に到達した可能性が小さいとは言えず、「立地は認められない」と判断した。
しかし、原子力規制委員会が定めた新規制基準は世界で最も厳しいレベルとされる。この基準に適合した伊方3号機について、原発の専門家ではない裁判官が、どのような根拠に基づいて運転差し止めの判断を下したのか不明確だ。
広島地裁は3月、新規制基準は「不合理とは言えない」と判断し、住民側の仮処分申請を却下した。このように司法の判断が分かれれば大きな混乱を招きかねない。
最高裁は1992年、伊方原発の安全審査をめぐる訴訟の判決で「極めて高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政の合理的な判断に委ねられている」としている。この判例を踏まえれば、今回の決定は不適切で受け入れ難い。
政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、安全性が確認された原発の再稼働を進めている。燃料の大半を輸入に依存する日本にとって、原発はエネルギー安全保障のためにも極めて重要だ。
地球温暖化対策を進める上でも、発電の際に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発の存在は欠かせない。裁判所には、こうした事実を踏まえた判断も求められよう。
専門的知見の尊重を
原発の運転差し止めを求める仮処分申請や集団訴訟は、全国で30件以上に上っている。伊方3号機をめぐっては、広島高裁のほか3カ所で仮処分が申請されている。
これまでも福井、大津両地裁が原発を止める判断を下した。だが原発の重要性を考えれば、軽々に運転差し止めの決定を出すべきではあるまい。全ての裁判所は、専門的知見に基づく規制委の判断を尊重する必要があるのではないか。