INF条約30年、露の違反への対抗措置は当然
米国と旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約が締結30年を迎えたことを受け、米国務省はロシアによる条約違反の対抗措置として、中距離ミサイルの開発に着手すると表明した。
米が中距離開発着手表明
米国務省のナウアート報道官は、ロシアに条約への回帰を促すために「経済・軍事的手段を模索する」と述べ、核弾頭を搭載しない地上発射型中距離ミサイルの開発も選択肢に含まれていると表明。その上で「ロシアが再び条約を順守すれば、開発を中止する用意がある」と強調した。
INF全廃条約は東西冷戦中の1987年12月8日、当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が調印した。背景には、ゴルバチョフ政権が進めたソ連経済の立て直しのため、大幅な軍縮が不可欠だったことがある。
この条約は、射程500~5500㌔の地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃を定めたものだ。核兵器を削減する条約が結ばれたのは、これが史上初めてだった。条約に従い、米ソは2692基のミサイルを91年6月までに破棄。東西の緊張緩和や冷戦終結につながった。
だが今年に入りロシアが、地上発射型の新型巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したことが判明。SSC8の配備は北大西洋条約機構(NATO)諸国への脅威となっており、米国は核弾頭の搭載が可能との見方を示している。
米国内では、米国だけが規約に縛られ、ロシアに出し抜かれるのではないかとの不満が高まっている。ロシアは条約違反を否定しているが、条約順守の明確な姿勢が見られないのであれば、米国が対抗措置を取るのは当然だ。
見過ごせないのは、日本が米国から導入予定の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に対し、ロシアが「INF全廃条約で禁じられたミサイルだ」と批判を加えていることだ。だが、イージス・アショアは北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射を受け、ミサイル防衛態勢を強化するために導入するもので、ロシアの脅威とはならない。
これだけでなく、ロシアは在韓米軍が配備を急ぐ最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」や、欧州でNATOが運用するミサイル防衛(MD)に対しても反発している。しかし、THAADは北朝鮮、NATOのMDはイランの弾道ミサイルの脅威に対抗するためのものだ。
特に、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速させている。北朝鮮が今年発射した弾道ミサイルの中には、日本上空を通過したものもある。日本や韓国が備えを強化するのは当然であり、そのことに「自国への脅威」として反発するロシアの姿勢は理解し難い。
同盟国守る最善の政策を
米国の一部の議員からは中国が多くの中距離ミサイルを保有していることから、条約の見直しを求める声も上がっている。日韓やNATOなどの同盟国を守るための最善の政策を検討してほしい。