米韓首脳会談、対北結束が融和より重要だ


 アジア歴訪中のトランプ米大統領は日本に次いで2番目の訪問国となった韓国で文在寅大統領と首脳会談を行った。両首脳は最大の議題と位置付けられた北朝鮮問題について制裁と圧力を強めていくことを確認したが、一方で文大統領は韓半島の平和体制構築や非核化に向けた対話に言及するなど、強硬路線のトランプ大統領とは温度差も見せた。

自制気味の米大統領

 トランプ大統領の訪韓は訪日と同様、就任以来初めてだが、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射などの軍事的挑発で周辺国に深刻な脅威を与えている最中行われた。問題解決の道筋をつけるため、両首脳が一致して断固たるメッセージを発信することを本来は期待していいはずだ。

 米大統領が軍事境界線を挟んで北朝鮮と対峙(たいじ)する韓国に足を踏み入れること自体、大きな意義があったのは言うまでもない。

 だが、トランプ大統領はむしろ対北融和政策を進めたい文大統領に一定の配慮を示した発言もした。会談後の共同記者会見で北朝鮮に対し、交渉に応じる「多くの正当な理由がある」と呼び掛けたほか、韓国側に懸念が残る韓国を頭越しにした対北軍事行動についてキッパリと否定した。

 ツイッター上の強硬発言で頻繁に話題になる「トランプ節」が自制気味だったのは、この緊迫した情勢では韓国と足並みをそろえる演出が必要だったためだ。

 文大統領は、覇権主義をむき出しにする中国との関係を米韓関係と同列に置く均衡外交を標榜(ひょうぼう)してきた。会見では米中間の等距離外交を意味するものではないと説明したが、米国側の不信感が払拭(ふっしょく)されたとは思えない。

 こうした首脳会談をめぐる「光景」は北朝鮮の最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長にどう映っただろうか。米国相手にどんなに挑発を繰り返しても、最後は融和路線で米国の軍事行動に反対してくれる一種の保険のように文政権を見なしているとすれば、大きな問題だ。

 トランプ大統領の滞在期間中、韓国では至る所で左派系市民団体が主導する反米・反トランプ集会が行われ、李洛淵首相が苦言を呈したほどだ。トランプ大統領の強硬路線こそが韓半島に戦争の危機をもたらしている、などとする彼らの主張は北朝鮮のそれと何ら変わらない。

 韓国大統領府での夕食会では「反日」演出まで飛び出した。元従軍慰安婦の一人が招待され、あいさつを交わしたトランプ米大統領に抱き着いたり、晩餐(ばんさん)メニューに「独島(竹島の韓国名)エビ」を使った料理が振る舞われた。

 トランプ大統領は北朝鮮張りの反米、場所もわきまえずに日米韓の連携に水を差す反日の実態に驚いたのではないだろうか。

米韓の溝の影響注視

 韓国は無理難題を押し付けられなかったとして今回の訪韓をおおむね評価しているが、北朝鮮問題をめぐる両国の溝が今後の北朝鮮情勢にどう影響するのか注視しなければならない。