核兵器禁止条約、国際情勢を踏まえていない
核兵器の生産、保有や使用を法的に禁じる「核兵器禁止条約」が国連で採択された。
一部で「核兵器廃絶への第一歩」と称賛するとともに、日本の不参加に対し「唯一の被爆国の信頼性が失われた」と非難する向きがある。だが、国際情勢の実態からあまりにも懸け離れた条約であり、参加を拒否した日本政府の対応は正しかったと言える。
日本は加盟しない方針
核兵器に絡む活動を幅広く違法化する条約が国連で採択されるのは初めて。50カ国の批准を得て発効する。ただ、日本や核保有国である米英仏各国は加盟しない方針を発表した。
国際条約は、その時点の国際情勢の実態と乖離していれば、効力を持たないのみならず、有害ですらある。今回の条約制定推進者には、白紙に文字を書けば効力を発揮するとの軽薄かつ無責任な考えがあるようだ。
この条約は軍縮条約の一種だが、軍縮条約に不可欠な「査察」手段についての具体的規定がない。これでは仮に全核保有国が条約に参加したとしても、それら諸国が本当に核兵器すべてを放棄したか否かを確認できない。このため、隠し持っていた核武装国は、事後に有利な立場に立ってしまう。
日本の核政策は、沖縄返還時の国会論議の過程で打ち出された「核四政策」である。核武装国が参加しない現状では、この核政策が根底から覆されることになる。
ロシアは非核保有国にも核の先制使用を辞さない軍事ドクトリンを採用している。中国は核戦力を質量ともに拡充し、北朝鮮の核開発も進展している。これらを念頭に置くと「唯一の被爆国」論だけで安易に条約に参加すれば日本の安全保障体制が崩れる。
ちなみに「核四政策」は①「非核三原則」を堅持する②米国の「核の傘」に依存する③核の平和利用は積極的に行う④国際核軍縮を積極的に推進する――が骨子である。ここで重要なのは、「非核三原則」の大前提として米国の核の傘に対する依存の方針がある点だ。条約に日本だけが参加すれば、条約には核兵器による威嚇を禁止する規定があるので、米国の核の傘は閉じられることになろう。
ただ承知しておくべきは、ロシア、中国に対する核の傘は、両国の対米第二撃力の保有によって信頼性が低下していることだ。また、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの開発に成功し、米首都ワシントンを攻撃できるようになれば、北朝鮮の対日核攻撃に対する核の傘の信頼性も揺らぐことになる。
国家守れぬ「被爆国」意識
なお一部の解説で、今回の条約は国際司法裁判所が1996年に出した「核兵器による威嚇とその使用の合法性についての勧告的意見」を踏まえて策定されたと説明されている。
この意見では、核兵器使用についての否定的な見方が少なくない。だが、同時に「法廷は、国家の存否がかかっている時、生き残りのための基本的権利と自衛行動に訴える権利を無視できない」とも指摘している。「唯一の被爆国」意識だけでは、国家の存続はできないのだ。