刑法犯戦後最少、「家族再生」でさらなる減少を


 刑法犯の認知件数が戦後初めて100万件を下回った。犯罪の約7割を占める窃盗が大幅に減ったほか、凶悪犯罪も少なくなった。官民挙げての防犯の取り組みの成果が表れている。だが、課題は残されている。

 虐待など親族間の暴行事件や少女を巻き込むインターネット犯罪、詐欺などの知能犯罪が増えている。検挙率も3割台にとどまる。「安全、安心な社会」の構築は道半ばだ。

 100万件を下回る

 刑法犯は2002年に戦後最多の285万件に達して「治安崩壊」とまで呼ばれた。このため国は03年を「治安回復元年」と位置付け、犯罪対策閣僚会議を設けて行動計画を策定。「空き交番」の解消や防犯ボランティアの支援などに努めてきた。

 その結果、14年連続で減少し、16年は前年から10万2000件余り(9・4%)減って99万6204件となり、戦後初めて100万件を割った。犯罪率(人口1000人当たりの認知件数)は7・8で、02年の22・4に比べ3分の1になった。「世界一安全な国、日本」づくりは着実に前進している。

 犯罪減少の要因は、過半を占める窃盗がピーク時の237万件から72万件と大幅に減ったことだ。また殺人が戦後最少の896件(前年比4%減)になったほか、放火、強姦(ごうかん)などの重要犯罪も減少した。街頭犯罪の摘発強化や防犯ボランティアの活動、防犯カメラの普及など官民挙げての防犯策が功を奏した。

 その一方で見逃せない事案がある。配偶者や親子間で発生したドメスティックバイオレンス(DV)や虐待などの暴行事件がここ10年で約3倍に増え、6000件を超えた。これは全暴行事件の4分の1に当たる。夫婦間では4倍以上の増加だ。

 また少女がネットで知り合った男らに連れ回されたりする略取誘拐・人身売買が228件と増加傾向にある。詐欺やカード偽造などの知能犯も前年比5%増だ。

 検挙率は前年に比べ1・3ポイント増えたものの、33・8%にとどまり、3件に2件が未解決なのも気掛かりだ。1970年代には6割近くあった検挙率が、刑法犯が減ったのになぜ上がらないのか、解明が急がれる。

 では、今後の犯罪対策に何が必要なのか。過去の行動計画では「地域連帯の再生」が最重要課題に据えられた。その成果は表れた。今、必要なのは地域からさらに一歩踏み込んだ「家族の再生」ではないか。

 2015年版犯罪白書によれば、高齢者の検挙人数は20年前に比べ約4倍増の約4万8000人に上り、その半数が再犯者だ。これには頼れる家族がいない「孤独」が大きく関連している。殺人のほぼ半数も親族間だ。

 また詐欺の被害者も独居の高齢者に多い。ネット犯罪に巻き込まれる少女も家族関係の希薄さが背景にある。家族の再生が犯罪防止の決め手となるのは多くの事犯から明白だろう。

 官民挙げて新たな対策を

 同時に国際犯罪やテロ事件にも備える必要がある。それには共謀罪を設けるなど新たな対応策が不可欠だ。犯罪防止に想定外があってはならない。官民挙げて次なる課題に臨みたい。