地球温暖化、米国は対策を後退させるな
2020年以降の地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が昨年発効した。
しかし、トランプ次期米大統領はパリ協定からの脱退を公言している。世界2位の温室効果ガス排出国の米国が脱退すれば、温暖化対策は大きく後退することになる。トランプ氏は超大国の次期指導者として、温室ガスの排出抑制で地球環境を守る責任がある。
トランプ氏「でっち上げ」
パリ協定は15年末に開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された。途上国を含む全ての国が温室ガスの削減に取り組み、世界全体で産業革命前からの平均気温の上昇を2度未満に抑えることを目指す。
協定発効は当初、採択から2~3年かかるとみられていた。だが、世界の温室ガス排出量の約4割を占める米中両国が昨年9月に同時批准。インドや欧州連合(EU)の動きも加速し、採択から1年足らずと異例の早さで発効した。国際社会の温暖化への危機感を反映したものと言えよう。
だが、トランプ氏の協定脱退表明が国際社会の懸念材料となっている。トランプ氏は温暖化を「中国のでっち上げ」と断言し、次期環境保護局(EPA)長官に環境保護規制反対派のスコット・プルイット・オクラホマ州司法長官を起用する。
パリ協定は発効後4年間は事実上脱退できない規定がある。だが、各国に温室ガス削減目標の達成を義務付けていないため、温暖化対策を実行しないことへの罰則はない。米国が温室ガス排出の抑制政策を見直せば、パリ協定の実効性は大きく低下し、京都議定書の二の舞いとなりかねない。
温室ガスの排出量を十分に減らせなければ、温暖化による異常気象や海面上昇などで全世界が大きな被害を受けるだろう。結局は、米国も不利益を被ることになるのだ。トランプ氏には、国土水没の危機に瀕(ひん)している島嶼(とうしょ)国の切実な声にも耳を傾けてほしい。
パリ協定は5年ごとに各国目標の達成状況を検証する仕組みとなっている。昨年11月のCOP22では、実施ルールを18年に決める作業計画を策定した。
COP22では、パリ協定採択を主導したオランド仏大統領が「引き受けた約束を尊重しなければならない」と警告するなど、トランプ氏を牽制(けんせい)する発言が各国から相次いだ。日本もトランプ氏が温暖化対策への理解を深めていけるように働き掛けるべきだ。
もっとも、日本の取り組みも十分とは言えない。パリ協定の批准も発効後で出遅れ感は否めなかった。
日本は、温室ガス排出量を30年までに13年比で26%減らす中期目標と、50年までに80%削減する長期目標を掲げている。ただ、この目標は原発が高い割合で再稼働することを前提としている。
原発再稼働を進めよ
東京電力福島第1原発事故の影響で、原発の再稼働はほとんど進んでいない。
原発を活用して温室ガス排出を抑制する上で、安倍晋三首相の指導力が問われている。