核兵器禁止条約、惨禍をもたらしかねない
国連総会第1委員会で核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」に関する決議が採択された。この決議は善意から生まれたものだろうが、日本が反対したのは適切だったと言える。
仮にこの種の条約が策定されても、核兵器廃絶はできない。それだけでなく、辛うじて保たれている核兵器を含む軍事バランスが崩れ、国際社会に核戦争の惨禍をもたらしかねないからだ。
確認し難い保有戦力
決議はメキシコやオーストリアなどの主導で55カ国以上が共同提案。123カ国が賛成し、日本や核兵器保有国の米露英仏など38カ国が反対した。
「被爆国として、日本は核兵器廃絶の先頭に立つべきだった」との非難が一部にある。しかし、わが国に大きな脅威を与えている中国核戦力の質量ともの向上や北朝鮮の核武装の動きは「唯一の被爆国」論や「非核三原則」を声高に唱えていても止まらない。必要なのは情緒的でなく、軍備管理理論を踏まえた論議である。
政府・外交当局は、決議反対の理由の一つとして日本が米国の「核の傘」の庇護(ひご)下にある点を挙げている。だが、これは説得力に欠ける。核兵器禁止条約が成立し、その目的通りに核兵器が全面的に廃絶されるならば、日韓独など非核国は米国の「拡大抑止」――いわゆる「核の傘」に依存する必要性はなくなるからだ。
問題なのは条約成立で、核兵器全廃が可能かという点だ。核、通常兵器を問わず軍備管理を実施する際の不可欠な条件の一つは、条約規定を本当に実行しているか否かを確認する「査察」である。ある国が条約に従って核兵器を全廃したと表明しながら、密(ひそ)かに一部を温存すれば、その国は唯一の核保有国として国際社会で優位に立てる。
かつて冷戦下で、米ソ両国が核兵器保有を規制する条約を締結できたのは、ミサイル発射用サイロの数を偵察衛星によって確認できたからである。だが、両国ともコールドランチ(弾道ミサイルをガス圧を用いて発射し、空中で第1弾ロケットに点火すること)方式の新サイロを開発したことで、一つのサイロから複数の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射が可能になった。このため、サイロの数からICBMの保有数を把握できなくなって、その後の削減交渉が頓挫した。
現在、核戦力は地上発射の弾道ミサイルよりは潜水艦搭載のSLBMが中心になっており、保有戦力は確認し難くなっている。中露両国は車両に弾道ミサイルを搭載して国内を移動させており、北朝鮮もこの技術を導入している。北朝鮮の場合は山岳地帯のトンネルに車両搭載の弾道ミサイルを格納し、それを取り出して発射できる態勢を取っている。
次期米政権の政策を懸念
留意すべきは、国連総会の決議は安全保障理事会と違って加盟国に対する強制力がない点である。それを承知で、安易な決議が行われることが多いが、今回もその一つであろう。北東アジアの情勢を念頭に置くならば、われわれが懸念すべきは次期米政権の核政策である。