拉致問題、制裁強化しつつ対話模索を


 5回目の核実験や日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾した弾道ミサイル発射などで北朝鮮の脅威が一層増し、北に対する制裁や迎撃体制の強化が声高に叫ばれる中、日本人拉致問題の解決が後回しにされるのではないかと危惧されている。日本にとって拉致被害者救出は最優先課題であることを再度思い起こさねばなるまい。

後回しにされるとの危惧

 拉致問題解決に向け、家族会や救う会などが主催し都内で開かれた「国民大集会」では、拉致を核・ミサイルと切り離し、被害者帰国の実質的協議を先行させるよう日本政府に求める声が上がった。

 こうした要請は十分理解できる。家族や支援団体には、核・ミサイルの“暴風雨”が吹き荒れる中でややもすると拉致問題が掻き消されてしまうのではないかといった不安がある。

 集会に参加した安倍晋三首相は「安倍内閣で解決するという原則に変わりない」と述べ、解決への決意を改めて示した。日本時間の22日に行われる国連総会での一般討論演説では、国際社会の結束による北朝鮮への圧力強化とともに拉致問題解決への協力を呼び掛ける予定だ。

 このほか、北朝鮮による核実験と弾道ミサイル発射を受けて採択を目指す国連安全保障理事会の決議の中に拉致問題の記述を入れるよう指示したという。

 だが、こうした政府の毅然(きぜん)とした態度にもかかわらず、拉致問題解決の道筋は一向に見えてこない。最大のネックは、北の最高指導者・金正恩委員長が被害者を日本に帰すという政治決断を下すまでには至っていない可能性が高いことだろう。

 一昨年、日朝両国は被害者再調査などを約束したストックホルム合意に至り、日本は被害者救出を目指した。だが、北朝鮮は自ら約束した被害者に関する報告書すら提出しないまま一方的に合意破棄を伝えてきた。

 双方の間では水面下で様々(さまざま)な駆け引きがあったというが、問われるのはこの過程で日本が金委員長の拉致問題に対する本音をどのくらい把握できていたのかという点だ。

 日本としては独自の追加制裁を行い、国際社会による制裁・圧力に歩調を合わせる一方、拉致問題解決に向けた対話を模索する必要がある。事実上破綻しているストックホルム合意の枠組みに日本政府が固執する理由もそこにあるのだろう。

 ただ、その際注意しなければならないのは、北朝鮮が制裁回避の手段の一つとして日本との対話に応じてくる可能性があることだ。

 対話が始まっても、ストックホルム合意後の交渉で見られたように、実利を得られないと判断すれば、いつでも合意を覆すつもりかもしれない。北朝鮮の真意を見極めながら動く周到さが不可欠だ。

北を交渉の席に着かせよ

 被害者全員帰国という譲れない目標を達成するには、制裁・圧力を背景にまずは北朝鮮を交渉の席に着かせることだ。国交正常化や植民地支配の賠償に固執する北朝鮮との間には認識の齟齬(そご)があるが、北朝鮮から譲歩を引き出すまで粘り強く臨むしかない。