減反廃止決定を農業の競争力強化につなげよ
政府は5年後をめどにコメの生産調整(減反)を廃止する方針を正式決定した。農業経営の自由度を高めて生産の大規模化を促進することが狙いだ。課題を克服し、農業の競争力強化につなげる必要がある。
農地の大規模化図る方針
政府が生産数量を決め、都道府県に配分する減反の仕組みは2018年度をめどにやめる。減反に協力する農家に支払うコメ補助金(水田10アール当たり1万5000円)は14年度から7500円に半減し、18年度に全廃する。
減反は1971年以来、40年以上にわたって行われてきた。しかし零細農家を保護することは、競争力強化の足かせになるとの批判があった。
現在、耕作放棄地は滋賀県の総面積に相当する。農家の高齢化や後継者不足も深刻だ。環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加など、農業を取り巻く環境は大きく変わりつつある。意欲のある農業経営者を育成することが必要だ。
コメ作りのコストは、10㌶以上では60㌔㌘当たり1万円余だが、1㌶以下は1万9000円とほぼ2倍になる。生産コストを下げるには、農地の大規模化が欠かせない。政府は14年度から農地中間管理機構(農地集積バンク)を活用して大規模化を進める方針だ。
一方、主食用から飼料用米への転作補助金(現行は水田10アール当たり8万円)は収穫量の伸びに応じて支払額が変わる仕組みに変更。最大で10アール当たり10万5000円が支給されるようになった。
日本人1人当たりのコメ消費量は12年度中に56㌔㌘とピーク時(1962年度の118㌔㌘)に比べ半分以下に減った。減反廃止で供給が増えて米価が急落すれば農家経営はさらに立ちゆかなくなるため、生産転換を促すためのものだ。
年間1000万㌧以上のトウモロコシを輸入に頼る日本にとって、飼料原料が外国頼みのままでは、食料安全保障上問題がある。その意味で飼料用米の生産量を増やすのは妥当だ。ただ、主食用の生産量が増えず、農地集約が妨げられるとの指摘もある。今後の制度設計で改善する余地はあろう。
また、水路、農道などの維持管理や環境保全のための共同活動に補助金を支払う制度も新設される。しかし、競争力強化と環境保全は別に考えるべきではないか。
海外の富裕層は良質で安全な日本産のコメに対する購買意欲を持っている。かなり高額であるが、輸出は伸びている。財務省の貿易統計によれば、2007年に940㌧だった輸出量が、昨年は2202㌧と5年間で2倍以上となっている。
が、約900万㌧の生産量に比べるとまだまだ少ない。日本ブランドを誇ることができるコメなど農産物は今後、輸出産業として育つ可能性がある。
5品目の関税は維持せよ
ただ、我が国の農家の多くは零細な兼業農家であり、農政の転換には時間が掛かる。コメをはじめとした5品目の関税は維持する必要がある。政府は、国益を踏まえたTPP交渉に当たるべきだ。
(12月5日付社説)