アイドルが刺される、警察は不手際を繰り返すな
東京都小金井市で、アイドルとして活動している20代の女性がファンの男に刃物で刺され、意識不明の重体となった事件では、女性が事前に警察に相談していたにもかかわらず、凶行を防ぐことができなかった。
アイドルが男に刺される
女性は事件前、自分のツイッターやブログに男から執拗(しつよう)に書き込みがされていると警視庁武蔵野署に相談していた。男の書き込みは当初、女性を応援する内容が多かったが、次第に「怒っている」「そのうち死ぬから」など過激な文言が目立つようになった。
しかし、武蔵野署は「直ちに危険が及ぶ内容ではない」と判断し、ストーカー被害の相談として扱わなかった。都内の各署のストーカー相談は全て、警視庁の「人身安全関連事案総合対策本部」に報告することになっているが、女性の相談は伝わっていなかったという。対策本部に報告が入っていれば、事件を防げた可能性もある。
また、警視庁が女性からの110番を受けた際、位置情報の確認をしていなかったことも分かっている。このため現場ではなく、事前に登録されていた自宅に警察官を派遣したという。直後に目撃者からの110番が入らなければ、現場到着が大幅に遅れていた恐れもあった。
さらに、3年前に警視庁万世橋署が別の女性アイドルから男とのトラブルの相談を受けていたにもかかわらず、登録システムに男の名前を入力しなかったことも判明した。ここまでミスが重なるようでは、警察への信頼が失われかねない。
警察は今回の不手際を猛省するとともに、再発防止に万全を期すべきだ。警視庁は6月中にも、通報が入れば自動的に位置情報が表示されるシステムを構築するとしている。ストーカー対策のためのシステムが十分に機能しなかった原因を究明し、教訓をくみ取って今後に生かさなければならない。
今回の事件では法の不備も浮き彫りとなった。2000年11月に施行されたストーカー規制法は、執拗な面会の強要や電話・メール送信など八つの行為について警察がやめるように警告でき、逮捕する場合もある。
だが、ツイッターなどの交流サイト(SNS)への書き込みは規制法に明記されていない。特定の人物へのストーカー行為かどうか判断が難しいためだが、書き込みが規制の対象となっていれば、今回の事件で警察の対応も違っていただろう。
事件を受け、自民、公明両党は書き込みを規制するため、規制法を改正する方針を固めた。速やかに実現し、ストーカーへの対応を強化する必要がある。
加害者治療の取り組みを
一方、茨城県警と県内の精神医療関係の3団体は、ストーカー事案の加害者に対し、精神科医など専門家による治療やカウンセリングで再犯防止を図るための覚書を取り交わした。
全国初の取り組みで、医療機関が加害者への接し方を警察官らに助言するとともに、加害者の同意を得た上で医師らが直接面会し、一方的な感情をコントロールするための治療を行うものだ。全国に広げ、被害者の安全確保につなげてほしい。