刑事司法改革関連法が成立、冤罪防止と治安維持に生かせ
容疑者の取り調べの録音・録画(可視化)や「司法取引」の導入などを盛り込んだ、一連の刑事司法改革関連法が成立した。冤罪(えんざい)防止と治安維持のために生かす必要がある。
可視化や司法取引を導入
一連の改革は、2010年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改竄(かいざん)・隠蔽(いんぺい)事件をきっかけに進められた。可視化の義務化は3年以内、司法取引は2年以内に導入され、犯罪捜査や刑事裁判の在り方が大きく変わることになる。
可視化は冤罪を防ぐために行われる。裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件が対象で、逮捕から起訴までの容疑者に対する取り調べで義務付けられる。義務化の範囲は、施行から3年後に再検討されることになっている。
ただ、可視化を実施すると容疑者と十分に信頼関係を築くことができず、供述を得にくくなる懸念も強い。このため、捜査側が導入を求めたのが司法取引だ。主に経済事件で、他人の犯罪解明に協力して不起訴などの見返りを得ることを、検察官と弁護人、容疑者の三者で合意できる。
もっとも、司法取引は冤罪を招く恐れがある。容疑者が自らの刑事処分を軽くするため、虚偽の供述で無実の第三者を巻き込むことも考えられるからだ。国会審議では、透明性を高めるため、取引に弁護士が立ち会うよう法案が修正されたが、不安は残る。
米国では、重大な冤罪事件の4分の1で虚偽の情報提供があったとの研究結果もある。司法取引での供述内容を物証で裏付けるなど、丁寧な捜査が求められよう。
今回の関連法では、薬物や銃器犯罪など4種類に限られていた通信傍受の対象犯罪に、詐欺や殺人、児童ポルノ製造・販売など9種類が新たに加わった。これまで必要だった通信事業者の立ち会いも撤廃された。振り込め詐欺などの特殊詐欺事件で捜査の強力な武器となろう。
特殊詐欺は、主に高齢者を狙う卑劣な犯罪だ。昨年の被害額は、前年と比べれば減少したものの、それでも約476億円に上る。ただ、詐欺グループのメンバーは互いの顔を知らない場合もあり、主犯を突き止めるのは難しかった。通信傍受ができるようになれば、捜査は大きく進展するはずだ。
しかし、傍受には令状が必要だ。欧州では国家の安全に関わるケースでは、令状なしでも行っている。現在、過激派組織「イスラム国」(IS)などの台頭で懸念が強まっているテロに関しても、日本では計画段階での傍受は認められていない。これでは未然防止は困難だ。
日本では20年に東京五輪・パラリンピックを控えている。テロを防ぐには、重大犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる「共謀罪」を創設することが不可欠だ。
共謀罪創設へ法整備を
00年に国連で採択された国際組織犯罪防止条約は、組織犯罪の実効性ある取り締まりのために加盟国に創設を義務付けている。テロ対策強化は国際社会全体の課題でもあることを念頭に、法整備を進めるべきだ。