トキひな誕生、野生定着への大きな一歩


 新潟県佐渡島で、自然界で生まれ育った国の特別天然記念物トキのつがいから、ひなが生まれた。

 野生で誕生したトキのペアからのひな誕生は40年ぶり。トキの野生復帰は新たな段階へと進んだ。

40年ぶりの「純野生」

 今回のひなは、2007~10年生まれの放鳥トキの孫に当たる。昨年は、自然界生まれのペアが抱卵したが、ひなは生まれなかった。今回の純野生ひなの誕生は、野生トキ定着への展望を開く大きな一歩と言える。

 ひなは通常、ふ化から約35日で巣立つとされている。無事に巣立っていくよう見守っていきたい。

 かつて日本各地に生息していたトキは、明治期以降乱獲などで減少。佐渡島が最後の生息地となったが、03年に最後の1羽の「キン」が死んで、日本産トキは絶滅した。その後、環境省は中国の協力を得て、同国産のトキを、佐渡トキ保護センターで人工繁殖させてきた。

 同省は03年、人工繁殖したトキを野生に復帰させる計画を掲げ、取り組みを始めた。08年9月には人工飼育されていたトキの放鳥が開始された。

 放鳥は13回、215羽に上り、12年には放鳥トキからひなが初めて誕生。以後、毎年ひなが誕生し巣立っている。

 現在、野生で生き延びあるいは誕生して生息するトキは151羽となっている。環境省は今後の目標を、佐渡島で野生トキ220羽を1年以上生息させることとしている。

 人工繁殖・飼育されたトキが野生に定着するには、そのための訓練も必要だ。野生復帰ステーションが設けられ、順化ケージで徐々に野性を取り戻す訓練が行われている。

 野生ペアからのひな誕生は、それだけトキが生息する自然環境が回復していることを示す。最もポイントとなったのが、カエルやドジョウなど安全なエサの確保。そのため佐渡では、棚田の復元、営巣木の保全や森林整備、そしてほとんどの農家が農薬を半分以下にするなど、トキが野生で暮らせる自然環境の再生を図っている。

 トキが安心して暮らせる環境は、人間にとっても安全で安心なのである。佐渡では「人・トキの共生の島づくり協議会」を設け、これに取り組んでいる。

 生息するトキがただ増えればいいというのではなく、確実に野生で繁殖すること、トキの生息できる自然の回復を目標に掲げている。このため、餌付けはしないことをルールとして守ってきた。

 トキの野生復帰の取り組みを通して、痛感させられるのは、自然環境に人間の手で変改を加え、破壊することは簡単だが、一旦(いったん)、失われた自然を取り戻すことがいかに時間とコストがかかるか、ということだ。

人間と自然の調和の指標

 トキはいまや、日本の自然破壊と自然回復のシンボルとなっている。自然と調和した人間の営みがなされているかどうか、その指標になろうとしている。佐渡島におけるトキの野生復帰を成功させれば、それが日本各地での自然回復の取り組みのモデルとなるはずだ。