拉致被害者の救出に向け改めて決意固めよ


 北朝鮮による日本人拉致の問題が再び行き詰まりを見せている。被害者全員の帰国を実現させるには、最高指導者・金正恩第1書記が決断する以外に道はない。政府は金第1書記を動かす覚悟を改めて固めるべきだ。

 返す意思なかった可能性

 先日、都内で開かれた拉致被害者救出を訴える国民大集会(家族会、救う会など主催)であいさつした安倍晋三首相は、一昨年5月に北朝鮮が被害者再調査を約束したストックホルム合意以来、進展がないことを遺憾だとした。被害者家族はもちろん、国民の総意も同じだろう。

 国民はこの2年間、日朝政府間で協議が重ねられた様子を見ながら、今度こそは被害者が帰国するのではないかという期待を抱いた。だが、いつの間にか対話は途切れ、北朝鮮は今年2月、被害者再調査などを行うとされた「特別調査委員会」の解体を通告してきた。

 何の罪もない民間人を白昼堂々と拉致し、何十年もの間知らぬ存ぜぬを繰り返した国が北朝鮮だ。国家間の約束事が通じる相手ではない。

 日朝交渉の過程を見ながら気になったのは、北朝鮮当局が最初から拉致被害者を帰国させる意思がなかった可能性があり、しかもそのことを日本政府が見抜けずにいた節があるということだった。仮にそうだとすれば、最も「遺憾」とすべきはこの点にあると言わねばなるまい。

 北朝鮮は今年1月に核実験、2月に長距離弾道ミサイル発射に踏み切った。国連安保理が採択した制裁決議、日本や韓国による独自制裁などで北朝鮮はかつてないほど強力な国際社会の制裁を受けている。

 日本としては今回の制裁を拉致解決に向けた意義ある圧力と位置付けたいが、実際にどれほど効果があるのか即断しかねる。北朝鮮に戦略的価値を見いだしてきた中国やロシアとの間に「抜け道」がないのかしっかり監視することが不可欠だ。

 極めて閉鎖的な北朝鮮との交渉事は水面下で行うこともあり得るだろう。その際、解決のカギを握っているのは交渉の場に現れるどの側近たちでもなく、金第1書記であることを念頭に置くべきだ。

 この2年間の日朝間のやりとりで明らかになったように、金第1書記を動かすには公式交渉による「正攻法」では限界がある。同じ轍(てつ)を踏まないためには、政府がこの点を克服する覚悟と具体策を持たねばならない。

 中国雲南省で失踪した米国人スネドン氏が北朝鮮に拉致された可能性のある問題で、拉致議連幹部が米政府が拉致を公式認定すれば米国の国民性からして軍隊を派遣して救出するだろうと発言すると、救出団体関係者が「それでは日本の国民性はそこまでする必要はないというものなのか」と問い掛けた。拉致解決へ一度は自問したい内容だ。

 何としても帰国実現を

 集会に参加した曽我ひとみさん(1978年拉致、2002年帰国)は、拉致問題が長期化する中、北朝鮮に拉致された母親ら被害者に今一番伝えたいのは帰国をあきらめないでほしいということだと語った。何としても被害者全員の帰国を実現しなければならない。