シリア内戦、持続性ある停戦で流血停止を
シリア内戦の停戦をめぐって協議していた米露が合意した。多くの死傷者、難民を出した内戦の収束の契機とすべきだ。
米露合意も先行き不透明
米露両国はシリア内戦で「敵対行為の停止」の条件で合意し、アサド政権と反体制派に受け入れを求めた。
内戦が始まってから間もなく5年を迎える。すでに数十万人の死者、数百万人もの難民が出ているが、情勢は複雑化するばかりで解決への糸口は見えてこない。
停戦合意も、アサド政権の後ろ盾であるロシアと、反政府勢力を支援する米国の間のものであり、双方が本気で受け入れるかどうかは不明だ。その上、テロ組織「イスラム国」(IS)やヌスラ戦線は合意に含まれておらず、停戦期間中もこうした組織への攻撃を続けることは認められている。
ISは首都ダマスカスと西部のホムスの2都市で連続爆弾テロを起こしたばかりだ。200人近くが死亡し、1日のテロによる死者としては最多となった。イラクでは守勢に立たされているものの、シリア内ではアサド政権、ロシア軍、反政府組織、クルド民兵らを相手に一進一退の攻防を展開している。
一方、昨年9月のロシア軍の介入で、反政府勢力は大きな打撃を受け、アサド政権軍が巻き返している。アサド大統領は「シリア全土の奪還」へ意欲を示すなど強気の姿勢だ。
これが、ロシアという強力な援軍のおかげであることは明らかだ。ロシアは軍事的優勢を背景に、自国に有利な形での政治解決を図っている。ところが、政府軍は反政府勢力への攻撃を強化しており、ロシアの思惑とは違う方向に進もうとしているように見える。
その間隙を突くようにISは大規模テロを実行した。停戦の阻止を狙ったものだろう。相次ぐ制裁や戦闘でISは、資金力が低下しているとみられている。それとともに、戦闘員のリビアへの大規模な移動も報じられており、戦線の再構築を迫られているのは確かだろう。
さらに、クルド人勢力やトルコの動きも見逃せない。クルド人勢力はアサド政権とは一定の距離を置いているが、ロシアへの接近を強めており、モスクワに大使館のような「代表部」を設置した。
今後、数を増やしていくことを明らかにしており、クルド人勢力を「テロ組織」と見なすトルコの反発は必至だ。
そのトルコは合意を歓迎、イスラエルは「停戦が実現するとは考え難い」(ヤアロン国防相)と懐疑的だ。アサド政権は原則的に受け入れることを表明したものの、軍事作戦を停止する地域をロシアと調整して決めると発表するなど慎重な姿勢を示している。
岸田文雄外相は合意を受け、「わが国としては、強みである人道支援を中心に各国と緊密に連携し、シリア情勢の改善、安定のために尽力していきたい」と支援への意欲を示した。
国際社会の強い後押しを
戦況は複雑化するばかりだが、合意が持続性のある停戦につながるよう、国際社会の強力な後押しが必要だ。