神聖な富士山の姿を後世に残したい


 世界文化遺産である富士山の環境や景観をいかに守るかが課題となっている。

 きょう2月23日を、地元の山梨県や静岡県などは「富士山の日」としている。日本のシンボルである富士山に思いを寄せる一日としたい。

政府が報告書を提出

 富士山は2013年6月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会によって「荘厳な姿は信仰の対象と芸術の源泉で、西洋芸術の発展にも顕著な影響をもたらした」と高く評価され、世界文化遺産として登録された。

 古くから霊峰として崇(あが)められ、多くの文学者や画家が作品のテーマとしたほか、描かれた浮世絵がヨーロッパの印象派の画家に大きな影響を与えたことなどを踏まえたものだ。

 世界遺産としての富士山は、標高1500㍍以上の山域のほか、忍野八海や三保松原など25の構成資産から成る。中でも三保松原は、諮問機関の国際記念物遺産会議(イコモス)が、審美的観点から防波堤が望ましくないなどの理由で除外を勧告していたにもかかわらず、世界遺産委は登録を決めた。

 こうした経緯を見ても分かるように、富士山の優れた価値が国際的に認められる一方、さまざまな課題が浮き彫りになったことも確かだ。富士山や周辺の開発が世界遺産としての価値を脅かしているほか、夏の登山者は多い年だと30万人を超え、斜面の崩落などの問題も引き起こしている。イコモスが対策をまとめた報告書を要請し、政府は先月ユネスコに提出した。

 報告書では、三保松原の防波堤を景観への影響に配慮したものに切り替えるなどの対策を示した。また登山者数の制限については、全地球測位システム(GPS)端末を登山者に配布する調査を実施し、18年7月までに4本ある登山道別の1日当たりの登山者数を設定し、登山者が快適で安全に登れるようにするとした。

 富士山の環境を守るため、一定の制限はやむを得ない。もっとも、地元の観光業界からは売り上げ減を懸念する声も上がっている。富士山は外国人観光客にも人気がある。どのくらいの登山者数が適正か、丁寧な議論が求められよう。

 山梨、静岡両県は一昨年から富士山の登山客1人当たり1000円の入山料を任意で徴収している。環境保全や安全対策のために使われるが、昨年夏に協力した人は半数に満たない。

 やはり世界遺産であるエベレストやキリマンジャロでは、入山料を払う仕組みが出来上がっている。環境を守るには、富士山でもこうしたルールを設けるべきだろう。

 世界遺産登録の際に指摘されたように、富士山は信仰の対象でもあった。修験者が足を踏み入れ、江戸時代には富士講が盛んになった。こうした歴史の発信を強めていくことも、環境保護意識の向上につながるのではないか。

環境保護と観光の両立を

 神聖な姿を守りつつ、多くの人に親しまれる山として富士山を後世に残すためにも、環境保全と観光振興の両立を念頭に置いた取り組みを求めたい。