新型出生前診断で安易な中絶はなかったか


 懸念されていたことが現実のものになったようだ。胎児の染色体異常が高精度で判明する新型出生前診断の臨床研究で、異常が確定した妊婦のほとんどが中絶を選んだことが報告され、この診断が「命の選別」につながる可能性が高いことが浮き彫りとなった。今後は、カウンセリングで提供される情報が適切かどうかを検証するとともに、「命の尊厳」について、社会全体で議論を深める必要がある。

 「命の選別」への強い懸念

 新型出生前診断の臨床研究は今年4月から始まった。妊婦からわずかな血液を採取して調べることで、胎児にダウン症候群(21トリソミー)、パトー症候群(13トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)があるかどうかが判明する。

 これまでの出生前診断は流産の危険性があった上に、精度が低いこともあってあまり広まらなかった。米国で開発された新型の場合、妊娠の早い段階(10週以降)ででき、かつ精度が高いのが特徴。ただ、検査で陽性となった場合でも100%の確率ではないため、流産の危険が伴う羊水検査で確定させる必要がある。それでも従来の検査より簡単なため、一般化し命の選別の手段になるのではないか、との懸念が強まっていた。

 このため、日本産科婦人科学会は今年春、他の検査で染色体異常の可能性を指摘された妊婦や高齢妊娠などに検査対象を限定。しかも、検査の前後に行うカウンセリング体制が整っているなど、第三者機関の認定を受けた施設で臨床研究として行うという指針を発表した。

 この研究に参加する研究者らによると、今年4月から9月までの半年間に、新型出生前診断を受けたのは3514人。陽性反応が出た67人の中で、異常診断が確定したのは56人だった。

 注視すべきなのは、異常が確定した人のうち53人が中絶を選択したことだ。中絶率は95%近くに達する。中絶の理由で最も多かったのは「赤ちゃんの症状が重いと予想される」が37%。次いで「子供を生み育てる自信がない」「将来設計に不安」がそれぞれ21%、「子供を残して死ぬ不安がある」17%などだ。

 ここで課題が浮かび上がってくる。一つは、わが国ではダウン症などへの偏見が強く、それが出産を諦める妊婦の多さにつながっていることだ。ダウン症には症状の軽重があり、一般社会で働き幸せに暮らす人も少なくない。カウンセリングでの適切な情報提供は当然だが、実際にダウン症の人と接する場があれば考えを変える妊婦が出てくる可能性はあるはずだ。

 もう一つは、社会全体で命の尊厳に向き合うことだ。わが国では少子化が急速に進む一方、年間20万件余りの人工妊娠中絶が行われている。命の尊厳を深く考える社会になっているとは言い難い。

 さらなる検証が必要

 異常が確定した妊婦のほとんどが中絶を選んだことからは、異常確定の場合は中絶すると決めて検査を受ける夫婦が多いことがうかがえる。命の尊厳から目をそらす風潮の中で、染色体異常と中絶を安易に結びつけている実態はないのか、さらなる検証が必要である。

(11月27日付社説)