JR北海道、安全守る使命はどこに行った
次から次へと発覚する不祥事に呆(あき)れるばかりだ。JR北海道のレール異常放置問題で、衆院国土交通委員会の参考人質疑に招致された野島誠社長は、これまで判明していた函館保線管理室だけでなく他8部署でレール検査データの改竄(かいざん)があったことを明らかにした。乗客の安全を守る鉄道会社の使命はどこに行ったのか。
大きい労組の影響力
JR北海道では今年に入って、7月に運転士が覚醒剤使用の疑いで逮捕され、9月にはレール異常放置問題が明るみに出たほか、別の運転士が操作ミスの発覚を恐れ、特急列車の自動列車停止装置(ATS)を壊すなどの不祥事が続いた。そして今回の改竄問題である。
不祥事続発の背景には、労働組合の影響力の大きさがある。JR北海道には、組合員資格者の80%強が加盟するJR総連系のJR北海道労組と、約8%のJR連合系のJR北労組、約2%の国労北海道本部などの労組がある。
JR総連に関しては、公安当局が過激派「革マル派」の浸透を指摘している。経営陣が組合側に遠慮して、抜本的な組織改革ができないのだ。
覚醒剤使用事件を受け、国土交通省北海道運輸局は全運転士への薬物検査実施を提案したが、JR北海道は「人権上の問題がある」などとして応じなかった。薬物事件で乗務員が逮捕された他の交通機関では検査を実施した例もある。JR北海道の姿勢は、乗客に対して不誠実極まりないものだ。
また、乗車前の飲酒検査を全乗務員に義務付けたのは、参考人質疑のわずか2日前だったことも明らかになった。JR北海道では昨年7月、検査を導入したが、「体質的に酒が飲めない」と上司に申告した場合、医師の診断書などがなくても免除されていた。
これもおかしい。他のJR6社は、全乗務員に検査を行っているのだ。これも労組の反発を恐れたためとみられる。
さらに、JR北海道はATSを壊した運転士の告訴を見送っている。これに対し、参考人質疑では自民党の委員が「労組に遠慮しているからだ」と追及する場面もあった。
この運転士への処分は15日間の出勤停止にとどまっており、菅義偉官房長官が「公共交通機関で安全安心をぶち壊す行動をした人で、あり得ない」と批判したのは当然だ。
JR北海道では、2011年5月に石勝線で発生した特急脱線火災事故後に、当時の中島尚俊社長が自殺している。中島社長は事故を受け、企業風土改善に取り組んでいたが、休日出勤や時間外労働を押し付けたと労組に責められ、心労の結果、死を選んだとみられている。
横暴は到底看過できない
こうした労組の横暴は到底看過できるものではない。抜本改革のためには、組織の膿(うみ)を出し切って正常な労使関係を築く必要がある。
改革が進まなければ、いつ大事故が起きてもおかしくない状況だ。労組の身勝手な要求によって乗客の安全が脅かされていることを経営陣は認識しなければならない。
(11月23日付社説)