「慰安婦」合意、日韓未来志向の出発点に


 岸田文雄外相は安倍晋三首相の指示を受け訪韓し、尹炳世韓国外相との会談でいわゆる従軍慰安婦問題をめぐり最終合意に至った。特にここ数年、日韓の最大懸案となってきた同問題が決着したことで、両国が未来志向の関係構築に向け歩み出すことを期待したい。

韓国「蒸し返さない」

 会談後の共同記者会見で岸田外相は、慰安婦問題について「当時の軍の関与」を認め、「日本政府は責任を痛感している」と述べ、責任の所在を明確にした。

 その上で岸田外相は、安倍首相が「日本国の内閣総理大臣として改めて心からのお詫びと反省の気持ちを表明する」として謝罪し、慰安婦問題の被害者支援を目的とする財団を韓国側が設立して、これに日本政府が予算から10億円程度を一括拠出すると明らかにした。

 資金の性格から見て人道主義に基づく支援であり、元慰安婦への償い事業として1995年に発足した「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」のフォローアップとして安倍政権内で検討されてきたといわれるものだ。

 日本政府としては一貫して財産・請求権は「完全かつ最終的に解決済み」との立場を明らかにしてきた。法的責任や賠償には応じられない中、最大限に誠意を示した格好だ。

 韓国側の譲歩もあった。尹外相は、同問題の解決を阻んできたとされる圧力団体の韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)を説得し、ソウルの在韓日本大使館前に設置された慰安婦を象徴する少女像の撤去問題について韓国政府として「適切に解決されるよう努力する」と初めて明言したからだ。

 同じような少女像は現在、韓国国内に20カ所以上あるのをはじめ米国にも広がっている。こうした動きにも歯止めを掛けねばならない。

 韓国は、この問題を蒸し返さないでほしいという日本の要請にも「国連など国際社会での非難・批判を控える」と約束し、今回の妥結で「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」した。繰り返される謝罪・賠償要求で日本側には「韓国疲れ」が広がっていた。これに終止符が打たれることになれば幸いだ。

 先月初めて開かれた日韓首脳会談では慰安婦問題で「早期妥結を目指し交渉を加速させていくことで一致」していた。この時すでに両首脳が政治決断していたのだろう。

 慰安婦問題で被害者の立場を日韓関係の「入り口」に置いてきた朴槿恵大統領としては今後、大きな覚悟が求められる。朴政権には慰安婦問題で強硬な市民団体や「反日」論調の強い国内メディアから予想される政権批判にひるむことなく、日韓が歴史認識問題でいがみ合った過去に後戻りしないよう関係改善の流れを確たるものにしてもらいたい。

関係改善は必須だ

 日韓両政府は、今年が国交正常化50年という大きな節目であることを踏まえ、慰安婦問題の妥結にこぎ着けた。

 中国の台頭や北朝鮮の脅威など北東アジアの安全保障は不安定だ。現実的な面から見てもやはり日韓関係改善は必須だ。

(12月29日付社説)