南シナ海、「航行の自由」継続へ決意示せ
米海軍のイージス駆逐艦が南シナ海の南沙(英語名・スプラトリー)諸島に中国が造成した人工島から12カイリ(約22㌔)内に進入した。「航行の自由」を守るための作戦だ。
中国外務省は「中国の主権と安全を脅かす」「地域の平和と安定を損なう」と反発している。しかし、緊張を高めたのは中国の方だ。
人工島12カイリ内に米艦進入
貿易立国のわが国にとって、航行の自由は国家の存立に関わり、断固として守らなければならない基本原則である。この問題が重大であることの認識が必要だ。
まず指摘しなければならないのは、米艦が今回、12カイリ以内を航行したスービ礁はもとは満潮時に水没する岩礁にすぎず、海洋法上島と見なすことはできないことだ。中国が埋め立てて人工島を造成し、12カイリ以内を「領海」と主張して米艦の通過を「主権侵害」と非難するのは、どう考えても無理がある。
海洋法は岩礁を埋め立てることを含めて、砂を移動させることをも認めておらず、ましてや領土、領海と見なすことも排他的経済圏と呼ぶことも禁じている。米政府は岩礁に主権の存在を認めず、公海は海洋法にのっとって治められるべきだとの立場である。国際法に基づく正当な主張であり、それを行動で示したことは評価できる。
南シナ海の大半の海域を自国のものだとする中国は、国際社会の抗議を無視し、人工島で3000㍍級の滑走路建設などを進めている。狙いは南シナ海での覇権拡大であって認めることはできない。
南シナ海のシーレーン(海上交通路)は世界貿易の大動脈である。中国の動きは、この輸送ルートを真っ向から脅かすものとして非難されるべきだ。
安倍晋三首相は来月初めにソウルで、中国の李克強首相との首脳会談に臨む。その際には、南シナ海での中国の海洋進出に対する日本側の強い懸念を伝えるべきである。
安倍首相は米艦派遣への支持を表明したが、さらに中国に実のある国際的圧力をかける必要がある。そのためには、11月に相次ぐ東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合などで、米国やASEAN諸国との連携を強めることが求められる。
問題は「オバマ政権のアジア重視は本物か」ということである。米国防総省や米軍は5月に艦船と航空機を人工島の12カイリ以内に派遣しようとした。航行の自由を掲げ、中国の領海とは認めない立場を鮮明にするのが狙いだった。
しかし、これに待ったを掛けたのはオバマ大統領だった。このこともあって、同盟国や友好国の間からは「アジア重視は看板倒れ」の声も漏れ始めた。
中国に対する無策はオバマ政権の国際的な信用を失墜させよう。オバマ大統領は9月下旬の米中首脳会談で習主席を説得できると踏んでいたが、結局失敗した。
示威行動で中国動かせ
南シナ海の航行の自由を守るため、オバマ政権はイージス艦の派遣を含めて示威行動を継続すべきだ。それ以外に中国を動かす道はない。
(10月30日付社説)