首相中央アジア歴訪で関係強化へ布石


 安倍晋三首相は、モンゴルそして中央アジア5カ国の歴訪を終えて帰国した。日本の首相が中央アジアを訪問するのは9年ぶりで、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスの3カ国は初めてだ。

 中国が急速に影響力強化

 中央アジア5カ国はユーラシア大陸の中央、かつてのシルクロードの要衝にあり、ロシア、中国、南はアフガニスタンなどと国境を接する、地政学的に重要な地域。かつてはソ連邦の一員で、今もロシアとの結び付きは強い。一方で近年、巨額の資金を武器に中国が急速に影響力を強め、シルクロード経済圏構想「一帯一路」に組み込もうとしている。

 安倍首相の歴訪は中国に対抗し、わが国が同地域を重視して存在感を持続させる決意を示すとともに、さらに戦略的な関係を深めていく布石となった。

 安倍首相は、最後の訪問国であるカザフスタンの首都アスタナのナザルバエフ大学で、中央アジア政策に関する演説を行い、今後、官民で3兆円を超える事業を創出する意向を発表した。同大学は、2年前に中国の習近平国家主席が「一帯一路」を発表した場所でもあり、首相の決意を示す形となった。

 わが国が得意とする「高度産業人材の育成」を支援していくことも強調した。カザフをはじめ中央アジアは資源の豊かな国が多いが、資源に依存するばかりでは未来はない。産業の多角化が大きな課題だ。その意味で、こうした人材育成は大きな意味を持つだろう。今回は50の企業団体を引き連れての歴訪であり、今後、民間企業の投資が活発化することが望まれる。

 中央アジア5カ国は、それぞれ微妙なスタンスの違いや温度差はあるが、中国、ロシアという大国との関係を重視せざるを得ない。上海協力機構の枠組みも機能している。しかし、5カ国は独立間もない頃から日本が国造りを支援してきたこともあり、親日的な国が多い。経済大国、技術大国としての日本に期待するものは大きい。中露とは違い、しがらみのない分、互恵的な関係が可能と言える。

 ウズベキスタンのカリモフ大統領との会談では、安倍首相が中国の積極的なインフラ投資に言及したのに対し、大統領は「関係強化を目指す国は複数あるが、最も透明で効率的な動きをしているのは日本だ」と応じた。

 ウクライナ南部クリミア半島や同国東部、そして南シナ海で力による現状変更を進めようとする中露の狭間に、これらの国々が存在する戦略的な意味は小さくない。この2国に対する一種の抑止力となるのである。

 5カ国はバランス感覚も長(た)けており、したたかである。また、大統領権限が強く、官僚主義の強い国が多い。その意味では、簡単に見返りや成果を望んでもうまくいかない面がある。こうした点を呑(の)み込んだ上で、高度技術と人材育成を最大の武器に、長い目で見ながら、支援、交流を進めていくべきだ。

 日本人の認知度向上期待

 留学生の受け入れ、文化交流も重要だ。豊かな天然資源や歴史・文化を持つ同地域への日本人の認知度が高まることも期待したい。

(10月29日付社説)