VW排ガス不正、自動車への信頼失墜は不可避


 ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が、ディーゼル車の排ガスを不正に操作し、米国や欧州の規制をかいくぐっていたことが発覚した。不正の可能性がある車は世界全体で1100万台に上る。

 規制逃れは極めて悪質な手口で行われ、VWにとどまらず自動車業界全体への信頼失墜は避けられない。

検査時に汚染物質抑制

 不正の可能性があるのは「EA189」というディーゼルエンジンを搭載した車種。エンジン管理用ソフトウエアの制御によって、当局などの検査時に排ガス中の環境汚染物質が大幅に抑えられるようになっている。通常走行時には基準値の最大40倍の有害物質を排出していたという。あまりにも悪質で、あきれるばかりだ。

 引責辞任したウィンターコルン社長は不正への関与を否定しつつ「こんな規模の不正が可能だったとは衝撃だ」と述べた。再発防止のため、欧米当局は経営陣の関与の有無も含め事実を徹底解明しなければならない。

 ディーゼル車はガソリン車に比べ二酸化炭素(CO2)の排出が少ないため、環境意識の高い欧州で普及が進み、現在では新車のほぼ半数を占める。ネックは窒素酸化物(NOx)など有害物質の排出が多いことだ。このため、燃料の効率的な燃焼や有害物質の浄化のための機能が開発されてきた。

 しかし、浄化装置を働かせ続けるとエンジンの耐久性や燃費が悪化する。VWは燃費などの性能向上のため、浄化機能を弱めていたとみられる。主力車種の利益率が低く、開発や製造のコスト削減が課題とされてきたことも不正につながったのだろう。環境への配慮が求められる自動車メーカーとして、あってはならないことだ。

 VWは2014年、世界販売台数1000万台を達成。今年1~6月期はトヨタ自動車を抜いて世界一となった。しかし、今回の不正でブランドイメージが悪化し、販売面でもダメージを受けることは必至だ。

 VWは1年以上前から問題を認識していたとも言われる。米当局がVWに課す民事制裁金は最大180億㌦(約2兆1000億円)に達する見通しだ。このほか、刑事訴追や車の所有者からの損害賠償請求に直面する可能性もある。業績悪化は避けられまい。

 問題は、今回の不正がVWにとどまらず、自動車業界全体の信頼を損なったことだ。ドイツの環境団体は、ダイムラーやBMWも走行性能向上のため、VWと同じ方法を導入していると主張している。両社は否定しているが、他社の不正によることとはいえ、一度傷ついた信頼を取り戻すのは容易ではない。

 VWの不正を受け、米当局は排ガス検査を強化する方針を打ち出した。ガソリン車に対しても強化する計画で、日本や米国のメーカーも負担増を強いられることになりそうだ。

環境性能の一層の向上を

 エコカー市場では、日本メーカーがハイブリッド車(HV)などで先行してきた。

 今回の問題を他山の石とし、環境性能の一層の向上を図る必要がある。

(9月29日付社説)