児童福祉司、専門性高め虐待の連鎖を断て
深刻度を増す児童虐待の防止策として、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の専門委員会が児童福祉司の専門性を向上させるとともに、虐待の緊急性を見極めて対応機関に振り分ける「トリアージセンター」を設置する強化案を発表した。
虐待で命を落とす子供をなくし、また世代間の“連鎖”を断つためには不可欠な内容で、関連法案を改正し着実に実現させてほしい。
状況見極める能力が必要
全国の警察が今年上半期に児童相談所に通告した18歳未満の子供は1万7224人で、昨年同期より4187人(32%)も増えている。また、生命や身体の安全が脅かされるとして、警察が一時保護した子供は1152人(昨年同期185人増)に達した。虐待を受けて死亡した子供は5年ぶりに増えて14人となった。
平成12年に児童虐待防止法が施行されて、虐待に対する国民の意識が高まったことで通報が増えるのはある程度予想された事態である。そうした中で、優先的に取り組むべきは子供の命を奪ったり、健全な成長を妨げたりしてしまう深刻な事例を減らすことだ。
こうした事例が発生するたびに巻き起こる批判は、児相が異常を把握しながら判断を誤って適切な対応を取っていなかったのではないか、というものだ。しかし、マンパワーが不足する上に、職員が専門性で劣っていたのでは対応のしようがない。
子供の命が奪われるとともにもう一つ深刻なのは、虐待が連鎖するということだ。親などからの暴力が何度も繰り返されることで子供の心の傷が深くなれば、健全な成長は難しくなる。そんな子供が大人になった時、虐待する側に回ってしまう恐れがあるのだ。
虐待への対応で重要とされるのは、把握した最初の段階で、子供を親から引き離すべきか、親との同居を続けていても安全は確保できるのかをしっかり見極めることだ。そのためには、対応に当たる児童福祉司が高度な専門性を身につけることが求められる。一般からの通告をトリアージセンターで専門家が一元的に受け付けて緊急性を判断し、警察、児相、市町村などに振り分ける仕組みも早期に実現させるべきだろう。
児童虐待防止法の施行以降、虐待の増加に対応するために、同法及び児童福祉法は何度か改正された。その主な内容は虐待に対応する行政側の義務の明記や、児相所長の親権喪失請求権の拡大など権限の強化だった。
ところが、児相で子供や親の相談に乗り、問題解決の手助けをする公務員である児童福祉司は、心理学や教育学を学び、児相に1年以上従事するなどすれば、任用資格を得ることができるため、その専門性に疑問の声があった。このため、強化案は、試験を課す国家資格にして、専門性を向上させることを柱にしている。
家庭や地域社会の再建を
虐待増加の背景には、核家族化、離婚の増加、地域社会の崩壊などがある。したがって、家庭や地域社会の再建など、長期的な視点に立った虐待防止策も強化すべきだろう。
(9月28日付社説)