露のシリア介入、これ以上混迷を深めるな
ロシアが、4年間続いてきたシリア内戦への直接軍事介入に踏み切る可能性が出てきた。
シリアのアサド政権を支援するためだが、軍事介入は内戦を激化させ、さらに多くの犠牲者を出すことになりかねない。国民の反体制デモを武力で弾圧したアサド大統領の正統性もすでに失われている。これ以上混迷を深めるべきではない。
過激派掃討へ基地設置か
ロシアとシリアは旧ソ連時代からの盟友同士だ。2011年のリビアのカダフィ政権崩壊後、アサド政権は中東・アフリカで唯一の親露政権となった。だが、過激派組織「イスラム国(IS)」がイラクのみならず、シリアに支配地域を拡大。アサド政権が国内の反政府勢力に加えてISとの戦いを強いられる状況となり、ロシアは同政権への軍事支援を公然と強化するに至った。欧米諸国はIS撲滅の名目でロシアが軍事介入するのではないかと警戒を強めている。
シリア政権の牙城でアサド大統領一族の出身県、同国北西部地中海沿岸のラタキア県のジャブラにロシアは新たな基地設置を計画中とみられている。米当局によれば、ラタキア市近郊の空軍基地にロシア製T90型戦車7両が配備され、1500人が収容可能な兵舎の建設が行われている。ロシアのSU27型機少なくとも4機が到着したとの報道もある。物資輸送・搬出にはロシア兵を含む軍事要員(顧問団)が随行している。
ロシアのプーチン大統領は「シリアの政権と軍が参加しなければ、テロリストを排除できない」と述べ、IS掃討にアサド政権の協力が不可欠だとの認識を改めて表明。さらに「アサド政権を支援しなければ、難民の(欧州諸国への)流入はさらに増大するだろう」と指摘した。
ロシアはまた、IS対策で必要なのはアサド政権と反政府勢力の協力だと主張。アサド政権打倒を掲げる反政府勢力を支援する米国は強く反発している。
プーチン大統領は今月末の国連総会出席の際、アサド政権を含む「対テロ共同連合」の創設を提案するとみられている。しかし、すでにIS掃討作戦で空爆を行っている米軍など有志連合と、ロシア主導の対テロ共同連合が衝突する可能性もある。
ISはロシアにとっても大きな脅威だ。ISに2000人とも5000人とも言われるロシア国籍者が参加しているとされる。その多くは北カフカス地域のチェチェンやダゲスタンの出身者で、このような過激分子が帰国してテロ活動を活発化することを当局は警戒している。
IS撲滅には米国の協力が必要なことはロシアも承知しているようだ。ロシアのラブロフ外相はケリー米国務長官との電話会談で「衝突回避に向けて何ができるかを議論するための軍当局者間の対話」を提案したという。ウクライナ問題で欧米から経済制裁を受け、国際的に孤立している局面を打開したいとの思惑もあるとみられている。
アサド政権退陣は不可欠
ただし、大きな国際問題であるシリア内戦の終結には、IS掃討とともにアサド政権の退陣が欠かせない。ロシアには責任ある行動が求められる。