日越首脳会談、幅広い分野で連携強化せよ
安倍晋三首相は、公賓として来日したベトナム最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長と会談した。日越両国は共に、強引な海洋進出を行う中国の脅威に直面している。政治、経済、安全保障などの幅広い分野で連携を強化すべきだ。
共に中国の脅威に直面
チョン書記長は7月、ベトナム戦争後の同国トップとして初めて米国を訪問し、オバマ米大統領と会談。米越関係は旧敵国同士から包括的パートナーへ変身を遂げた。親中派として知られるチョン書記長が日米両国との連携強化を示したことは、中国への牽制(けんせい)を実のあるものにする狙いがある。
中国は昨年5月から7月にかけ、ベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島で石油掘削を一方的に実施。中国船がベトナム船に体当たりするなど挑発的行動に出てベトナムとの対立が激化した。今年も6月から8月まで西沙諸島西方で石油試掘を行ったほか、7月には中国船の体当たりでベトナム漁船が沈没する事件も起きている。
一方、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺では中国公船の領海侵入が常態化するなど日本周辺でも中国の脅威が高まっている。日本にとってベトナムとの連携強化の意義は大きい。
チョン書記長は訪日を前に「日本はベトナムにとって最も重要なパートナーであり、アジア地域の平和と繁栄のため両国が戦略的な関係をより一層深めていくことを望む」と語った。
安倍首相は会談で、ベトナムの海上警備能力を強化するため、巡視船に転用可能な中古船の追加供与を表明。性能の高い新造船供与に向けた協議も続ける方針を確認した。
両首脳は、岩礁埋め立てや軍事拠点整備で緊張を高める中国の南シナ海での動きに関し「深刻な懸念を表明する」などとした共同声明を発表した。チョン書記長は、安倍首相の戦後70年談話について「歴史から深く教訓を得て平和国家として歩むとの誓約」と評価。「地域や世界の平和のための日本の積極的な貢献を歓迎する」と述べた。安全保障法制の整備を支持する意向表明である。
安倍首相は2013年1月、第2次政権発足後最初の外遊先としてベトナムを訪問した。日本はベトナムにとって最大の援助国だ。ベトナムの人口はメコン地域最大の9000万人を超え、1人当たり国民総生産(GDP)は2000㌦、経済成長率は6%近くで将来性は高い。
首相は、ベトナムの港湾、高速道路、総合病院などインフラ整備のために総額約1000億円の円借款を供与すると表明。また、エネルギーや農業分野での協力強化で一致し、環太平洋連携協定(TPP)交渉の早期妥結に向けて協力することを確認した。
一層の協力関係発展を
チョン書記長は東京都内の講演で、南シナ海問題について「シーレーン(海上交通路)は日本の利益に直接関わる。日本も(防衛の)責任がある」と述べ、日本との安全保障協力に期待を表明した。書記長来日を契機に、両国の協力関係を一層発展させたい。
(9月18日付社説)