高齢者移住、希望実現に向けた環境整備を
都市部の高齢者に地方に移住してもらい、周辺住民との交流で地域活性化を目指す構想「生涯活躍のまち」の在り方が検討されている。
構想は地方創生の一環
この構想は人口減少の抑制と東京一極集中の是正を図る地方創生の一環で、政府は2015年度からのモデル事業実施に向け、移住する高齢者や受け入れ自治体向けの支援策を年内にまとめる予定だ。
元気なシニア世代の移住先として米国で広がる共同体「継続的なケアを提供するリタイアメントコミュニティー」(CCRC)を参考にしている。CCRCの居住者は、大学などを拠点に地域の社会活動に参加したり、住民と交流したりしながら自立した生活を送る一方、必要に応じ医療や介護のケアを受けられる。日本でも高齢者が移住すれば、雇用創出などで地方が活性化しよう。
もちろん、地方に移住するかどうかは自由だ。政府は移住促進への取り組みが「押し付け」と受け取られないように注意しなければならない。
もっとも、内閣官房が東京都在住者を対象に14年に実施した地方移住に関する意向調査によると、50代の男性で50・8%、女性は34・2%が「移住予定」または「検討したい」と回答している。こうした希望を実現しやすくすることは必要だ。
全国で202の自治体が構想推進に意欲を示している。政府の有識者会議が公表した中間報告では、こうした市町村に高齢者受け入れを円滑にするための基本計画の策定を求めた。
共同体の居住施設としては、安否確認などを受けながら暮らせるサービス付き高齢者向け住宅の活用を明記。入居者は健康な65歳以上が基本だが、40~50代や介護が必要な人の入居も認める。入居者に地域交流などを促す専門人材の配置も盛り込まれた。
移住希望の高齢者でも、実際に縁もゆかりもない地域で生活することは不安も大きいに違いない。政府や自治体には、こうした不安を解消するための工夫が求められる。
特に自治体は、きめ細かい情報提供に努めなければならないだろう。静岡県南伊豆町が東京都杉並区と連携し、元気な高齢者を対象に行っている「お試し移住」事業などは興味深い取り組みだ。
また、移住したくても住居費や生活資金の確保が難しいケースもあろう。政府はローンを組んで住宅を買い替えれば損失を所得から控除する現行の所得税特例制度について、地方の賃貸住宅に住み替える高齢者にも適用する方向で検討している。こうした後押しもさらに進めてほしい。
地方「消滅」に歯止めを
有識者でつくる日本創成会議は6月、1都3県の東京圏で高齢者が急増し、25年に介護施設が約13万床不足するとの推計をまとめた。
こうした状況に陥らないためにも高齢者が地方に移住しやすい環境を整えることが重要だ。東京圏で介護需要が高まれば介護人材が地方から流入しよう。地方の「消滅」に歯止めを掛ける必要がある。
(8月31日付社説)