米海洋安保、アジア太平洋の安定に努めよ
米国防総省は、アジア太平洋の海洋安全保障の戦略に関する報告書を初めてまとめて公表した。報告書は今後、アジア太平洋地域に航空部隊や艦隊を追加配備することで「軍事力を強化し、紛争や威圧を抑止するとともに、必要なら断固として対応する」ことを強調している。米国は戦略の実行によって地域の安定に努めるべきだ。
兵力や装備を重点配備
報告書は「米国および同盟国と友好国の航海の安全を潜在的脅威から守るため、米国は同地域への軍事プレゼンスを今後も維持する」と述べ、そのための軍の装備近代化を謳(うた)っている。
兵力や最新鋭の装備をアジア太平洋地域に重点配備する方針が示され、軍事プレゼンスを大幅に強化する構えだ。中国軍の軍事力の近代化が突出していると指摘しているように、中国の急速な軍備増強と海洋進出の脅威を背景にしたものとみて間違いない。
報告書は、中国は2013年12月に南沙諸島で埋め立てを開始し、その面積は今年6月までにベトナムなど他の係争国の17倍に当たる約1170㌶(11・7平方㌔㍍)に拡大したと説明している。
中国は6月末に埋め立てを完了したと主張している。だが報告書は、埋め立てからインフラ整備に重点が移りつつあると指摘。滑走路建設などが進めば、空母と連携した中国の軍事拠点になる恐れがあり、地域をさらに不安定にすると強い警戒感を示した。
また、米太平洋艦隊に所属し米国領外を拠点とする艦船の総数を今後5年間で約30%増やすとした。20年には在外海・空軍部隊の60%がアジア太平洋地域に集中することになる。
この地域では年内に、空母「ジョージ・ワシントン」から、より戦闘能力が高くなった「ロナルド・レーガン」に代わる。20年には最新型の強襲揚陸艦「アメリカ」が配備される。アメリカは航空機搭載が可能で、ミニ空母と呼んで差し支えない。レーダーに映りにくいステルス駆逐艦(DDG1000)3隻も順次投入する。
日本に関しては防衛協力の指針(ガイドライン)に基づき連携を強めていくとし、ミサイルの探知・迎撃に役立つイージス駆逐艦を新たに2隻配備する。最新式多機能戦闘機F35は17年から岩国基地(山口県岩国市)に配備されるほか、日本やオーストラリアなどの同盟国への供与(計395機)が数年以内に始まる。
報告書は2015会計年度の国防権限法に基づき作成され、国防総省が議会に提出した。国防総省は毎年、中国の軍事・安全保障に関する年次報告書を出しているが、議会の要望で、今年は海洋に関して別の報告書をまとめるよう同法に規定が盛り込まれていた。
問われる政権の本気度
自らを「太平洋大統領」と呼ぶオバマ米大統領が打ち出してきた「リバランス政策」に対しては、アジアの同盟国・友好国のみならず世界の国々の間で実効性をめぐって疑念が深まっている。報告書の公表で、オバマ政権はリバランス政策への本気度を問われることになる。
(8月29日付社説)