性犯罪厳罰化、防止策の強化にも取り組め


 強姦罪などの性犯罪を厳罰化し、被害者の訴えがなくても起訴できる「非親告罪」に改める――。そんな報告書を法務省の検討会がまとめた。

 性犯罪への処罰はかねて甘過ぎると指摘されてきた。罰則強化は厳罰化というよりも適正化だ。だが、性犯罪を防止する仕組みはまだ甘い。罰則だけでなく防止策も強化すべきだ。

 海外ではGPS装着も

 性犯罪は女性の尊厳性を破壊し、取り返しのつかない傷を与えるので「魂の殺人」とも呼ばれる。それにもかかわらず、現行刑法の法定刑は軽いと言わざるを得ない。

 例えば、強盗致傷罪の法定刑の下限は懲役6年だが、強姦致死傷罪は5年。強盗致死の最高刑が死刑なのに対して強姦致死は無期懲役だ。物を取った罪よりも「魂の殺人」の方が軽い。これはどう考えても理不尽だ。

 また被害者の訴えがなければ起訴できない親告罪であることも疑問視されてきた。性犯罪が野放しにされかねないからだ。非親告罪化し、同時に被害者に不利益を生じさせない対策も徹底する。法改正ではそうした視点が必要だろう。

 しかし、性犯罪を防ぐには罰則強化だけでは不十分だ。性犯罪には中毒性があり、再犯率が極めて高い。実際、強姦罪の出所者の場合は40%近くに上っている。

 このため刑務所や保護観察所で「性犯罪者処遇プログラム」を受講させる取り組みが始まったが、効果は限定的で、再犯を防ぐには程遠いのが現実だ。

 国が動かないので独自に動く自治体もある。大阪府は3年前に児童に対する性犯罪者が出所後に府下に住む場合、居住地の届け出を義務付ける条例を全国で初めて施行した。

 だが、条例は地域が限られ罰則も軽いので、効果はさほど期待できない。実際、大阪府は強制わいせつの認知件数が5年連続で全国ワースト1だ。

 わが国の性犯罪対策は海外に比べて甘過ぎる。そんな指摘にも耳を傾けるべきだ。例えば、フランスなどでは性犯罪前歴者に全地球測位システム(GPS)を装着させ、韓国では児童を対象とした性犯罪者に薬物治療を行っている。

 いずれも被害者を出さないことに主眼を置き、厳しい姿勢で臨んでいる。だが、わが国は加害者の“人権”を理由にこうした施策に消極的だ。被害者救済が叫ばれながら、いまだ加害者への配慮が優先しているのは解せない。

 さらに熟考したいのは抜本的な防止策だ。なぜ性犯罪者が生まれるのか、その根本にメスを入れなければ、対策は後手に回るばかりだ。

 専門家は、親子関係が歪(いびつ)だったり、愛情不足だったりするなど成育過程に問題がある場合に性犯罪に走りやすいと指摘している。性的妄想が膨らんだ末に快楽殺人を引き起こすケースすらある。

 家族再生の視点が必要

 家族の在り様が性犯罪を招いたり防いだりする。そう言っても過言ではない。

 このことは犯罪全般に当てはまる。家族再生の視点を忘れてはなるまい。

(8月14日付社説)