新幹線放火、テロ含め再発防止に全力を
東海道新幹線のぞみ車内で林崎春生容疑者(71)が焼身自殺し、巻き添えになった乗客の女性1人が死亡、26人が気道熱傷や一酸化炭素(CO)中毒などで重軽傷を負った事件で、国土交通省はJR5社に、警備態勢の強化や危険物持ち込み規制の検討など、安全対策の徹底を指示した。テロや同様の事件の再発防止に全力を尽くさなければならない。
設計・開発で考慮も
ガソリンなど可燃性液体の持ち込みは鉄道営業法などに基づき、原則禁止されているが、林崎容疑者はガソリンを購入し、当日車内に持ち込んでいた。
危険物の持ち込みを防ぐには、空港のように、乗客一人一人の手荷物検査を実施するしか手立てはないだろう。しかしこれを導入すると、旅客の長い行列ができてしまうのは明らかで、現実的ではあるまい。
事件後、JR東海は従来の「危険物・不審物」に加え、「不審な行為」に気付いた場合も、駅員や乗務員に連絡するよう乗客に注意喚起を始めた。新幹線全駅の構内や車内などで放送や電光掲示板のテロップを通じて呼び掛けている。
さらにJRと警察が連携し、ホームや車内の巡回の頻度を高め警戒を強めたり、乗客一人一人に対して行われる車内検札などで不審者の発見に努めたりすべきだ。
今回の事件で、運転士が緊急停止させて備え付けの消火器で火を消し止め、車掌が乗客を後方の車両に避難誘導したのは適切だった。新幹線の中は天井やシートに燃えにくい素材を使っており、車両全体に燃え広がることを防いだが、排煙設備が十分ではなかったため、女性1人が巻き添えになって亡くなる結果となった。排煙設備設置などの検討が必要だ。
既に航空機の世界では、事故や事件で浮き彫りになった問題の解決法を、航空機の設計や開発の手法に求めることが常識になっている。耐衝撃性に優れた機体や座席の構造の研究、不燃性材料の開発、迅速な救助システムの整備など、いわゆるフェール・セーフ(二重の安全)の考え方が取り込まれている。新幹線の場合、世界で運航される航空機と違って、事故など検討事例が少ないこともあって同様の措置は取りにくいが、運行に携わるすべての組織が連携し安全を確保したい。
一方、事件は車体の不備など、運行側の不手際によるものではなかったものの、高い安全性を維持してきた新幹線で起きたことは残念だ。安全管理にぬかりはなかったか確認することも求められる。
世界に誇る新幹線を
東海道新幹線は多い時間帯で2~3分おきに走り、1日に42万人余りを運ぶ。航空機と異なり、発車間際に駅に着いても乗れる利便性があった。高い評価を受けていることで、おごりやマンネリズムなどはなかっただろうか。
太田昭宏国交相は「利便性も重要だが、テロへの対応など幅広い対策を詰める必要がある」とJR各社に要請した。今回の事件を契機に、世界に誇る新幹線技術にさらに磨きをかけていきたい。
(7月5日付社説)