拉致再調査1年、北朝鮮を動かす知恵絞れ
北朝鮮が日本人拉致被害者の再調査などに向け、特別調査委員会を発足させてからちょうど1年になる。当初、1年をメドに終わるはずだった調査は、まともな報告が1回もなされないまま成果があったか否かすらうやむやだ。
毎度のことながら北朝鮮の不誠実な対応には閉口するしかないが、被害者全員の帰国という目標達成は絶対に譲れない。
再調査報告また延期
自民党の「対北朝鮮措置シミュレーションチーム」は先日、拉致問題をめぐる日朝交渉に進展が見られないことを受け、制裁強化を安倍晋三首相に要請した。昨年7月、再調査開始の体制を北朝鮮が整えたと判断して政府が一部解除した制裁の復活や人道目的以外の送金全面禁止などが盛り込まれた。
だが、制裁強化に政府は慎重な姿勢を見せている。水面下で続く日朝間の対話が途絶えることだけは避けたいという思いの表れだろう。
対北制裁で輸入禁止となっている北朝鮮産マツタケの不正輸入疑惑をめぐり、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)トップの許宗萬議長宅が家宅捜索され、息子が逮捕されるという事態に北朝鮮は態度を硬化させたが、交渉そのものを中断するとは言っていない。
昨日、北朝鮮が再調査の報告時期を延期したいと日本側に伝えてきたことが分かった。この期に及んでまた時間稼ぎか、という不信感が湧くのは当然で、制裁復活を望む声が強まっている。独裁国家との交渉そのものに懐疑的な人も増えてきた。
ただ、拉致解決に責任をもとうとする以上、話は制裁復活だけで済むほど単純ではない。制裁なくして北朝鮮は動かないが、交渉維持はそれに劣らず重要だ。
北朝鮮は拉致被害者の一人、横田めぐみさん(50)=拉致当時(13)=の偽の遺骨を平気で渡してくるような国だ。総連本部ビルの競売問題をめぐっては、日本が事実上の譲歩をしたと受け止められる展開になったが、北朝鮮側から納得のいく回答は得られなかった。過去の失敗を教訓に北朝鮮が本気で動かざるを得ないよう知恵を絞っていく必要がある。
拉致被害者の安否と帰国につながる情報を最優先させたい日本側の要求を、日本人の配偶者や遺骨の問題にすり替えて応じようとする北朝鮮にどうのませるか。「対話と圧力」でこちらが北朝鮮を揺さぶるくらいの気概がなければ難しいだろう。
田口八重子さん(59)=同(22)=の兄で家族会代表の飯塚繁雄さんは今月初め、都内での集会で「頭の中は被害者の帰国だけ」と語った。被害者救出を訴え続けて数十年の歳月が流れ、家族は疲労困憊(こんぱい)している。
国民が望むのは結果
2002年の小泉純一郎首相による訪朝に同行し、その後もこの問題に積極的に関わってきた安倍首相自身、家族の心痛に誰よりも寄り添ってきた政治家の一人だ。だからこそ期待が大きい。拉致問題の原則に「一括全面解決」を掲げ、「任期中の解決」を明言したが、国民が望むのは不退転の決意表明ではなく、結果だ。
(7月4日付社説)