露の核配備方針、米との対立激化させるな


 戦後続いた東西の冷戦は、ソ連の消滅によっていったんは収束したかに見えたが、またぞろ欧州を舞台とする「新冷戦」の様相が濃くなった。このことに強い危機感を覚えないわけにはいかない。

 背景には昨年2月のウクライナ政変、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合し、同国東部で政府軍と戦う親露派を支援していることがある。

強硬姿勢示すプーチン氏

 ロシアのプーチン大統領は「最先端のミサイル防衛網さえも突破する能力のある核弾頭を搭載した40基以上の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を今年中に追加配備する方針」を明らかにした。ロシアは今、約350基のICBMを保有していると言われる。さらに核戦力を増強する姿勢を強調することで、米国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられている。

 ケリー米国務長官は直ちに、「プーチン氏の発言を当然懸念している。誰も冷戦時代の状況に戻りたいとは望んでいない」と批判した。

 この発言の数日前、米国のマスコミは米国防総省が有事に備え、北大西洋条約機構(NATO)加盟のポーランドなど東欧諸国やバルト3国への戦車や重火器の配備・保管を検討していると報道した。プーチン大統領はこうした米国の動きを念頭に、強硬な姿勢を示したものと受け取られている。

 しかし、この措置はウクライナの主権と領土の一体性を侵害し続けているロシアを念頭に置いたものだ。ロシアは米国との対立を激化させるのではなく、今年2月のウクライナ東部の停戦合意を順守し、同国領内から全ての武器や兵士を撤収しなければならない。

 米国防総省のウォレン報道部長も、米軍が欧州のNATO加盟国に事前に配備しておく軍事装備の増強を検討中であることを明らかにした。具体的には戦車、装甲車、自走砲など合計1200両を含む米兵5000人の配備を計画しているという。ポーランド、ルーマニアやバルト3国に米軍の重火器が配備されるのは東西冷戦終結後初めてと言われる。

 ロシア国防省監察総監局のユーリー・ヤクボフ将軍は「このシナリオが現実のものになった場合、それは冷戦以後に米国防総省とNATOによってなされた最も攻撃的な措置となるだろう。こうした状況が進むなら、ロシアは西方戦略における自分たちの力と手段の拡大を開始する」と述べ、さらに「ロシア最西端カリーニングラード州のミサイル旅団は、新型戦術弾道ミサイル『イスカンデル』の装備を開始し、ロシア西部国境沿いの全部隊は強化されるだろう」と報復手段を説明した。

 もっとも、ウクライナ危機を受けた欧米による経済制裁に原油安なども加わって、ロシア経済は悪化している。プーチン大統領の「核配備」発言は、自らの立場を一層苦しいものにするだろう。

ウクライナの主権尊重を

 苦境を脱するには、ウクライナの主権を尊重する姿勢を示す必要がある。

 「力による現状変更」は決して認められない。

(6月21日付社説)