日米は対中圧力高める戦略を


 アジア太平洋地域各国の防衛担当閣僚らが地域の安全保障問題や防衛協力について意見交換するアジア安全保障会議(シャングリラ対話)がシンガポールで開かれた。

 会議では、中国が南シナ海・スプラトリー(南沙)諸島で岩礁の埋め立て工事を急ピッチで進め、地域の緊張を高めている問題が大きな焦点になった。

 埋め立ては軍事目的

 カーター米国防長官は演説で、スプラトリー諸島で急速に人工島を築き、滑走路を建設する中国について「アジア太平洋地域の安全保障を構築する規範と国際法から逸脱している」と批判し、埋め立ての「即時かつ永続的な中止」を要求した。

 その上で「南シナ海の争いに軍事的解決はあり得ない」として、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国に対し、年内に紛争防止に向けた行動規範を策定するよう促した。

 中谷元防衛相も、周辺国の不安をあおっているとして中国に強く自制を求めた。中国は東シナ海の沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返しており、中谷防衛相は「東シナ海でも現状の変更を試みる動きがある」と警戒感を示した。

 中谷防衛相、カーター長官、オーストラリアのアンドリューズ国防相は会議を利用して、3カ国防衛相会談を開催。共同声明で「中国による埋め立てに対する深刻な懸念」を表明した。安保協力を進める日米豪が足並みをそろえた形だ。

 一方、中国人民解放軍の孫建国副総参謀長は演説で、米側の中止要請には一切応じないと表明。埋め立てや施設建設について「完全に中国の主権の範囲内の問題だ」として、今後も継続する考えを示した。

 埋め立ての目的については「駐在する作業員の生活条件を改善し、軍事防衛上の必要性を満たす」ことにあると明言し、軍事目的があることを認めた。将来的にはスプラトリー諸島を軍事拠点化し、海洋への出口を確保する狙いがあるとの見方を裏付ける発言と言えよう。

 南シナ海は原油などの海底資源が豊富とされているほか、重要なシーレーン(海上交通路)となっており、東アジア向けの石油タンカーなどの多くがここを航行している。中国が軍事力を強化すれば「航行の自由」が脅かされかねない。

 中国は南シナ海の地図上に「九段線」という境界線を引いて、多くの海域を自国のものだと主張している。こうした主張に基づく海洋進出は、フィリピンやベトナムなど領有権を争う周辺国との緊張を高める一方であり、容認できない。

 こうした行動に対しては、日米豪とASEANが連携して中国への圧力を高めることが望ましい。だが、南シナ海の問題に関してはASEAN各国の間で立場に開きがある。いかにASEANを取り込むか。日米は戦略を練る必要がある。

 中国の実効支配阻止を

 先月発表された中国の国防白書は海軍力の増強を進める方針を打ち出し、「海上軍事闘争への準備」を明記している。

 中国による南シナ海での実効支配の既成事実化は、絶対に阻止しなければならない。

(6月3日付社説)