ビザなし交流、日露の思惑が交錯も継続へ
日露両国は一端中止となった北方4島「ビザなし交流」の日本側訪問について、21日に再度協議を行い、最終的にビザなし交流は7月2日から、自由訪問は6月2日から行うことで合意にこぎ着けた。
露側の一方的な通告
外務省は5月14日、北方4島「ビザなし交流」の日本側訪問が、ロシア側の事情で中止になったことを明らかにした。3月末には今年の予定が決まっていたが、13日にロシア側から「内部の調整が完了しておらず、受け入れられない」と一方的に通告してきたという。
「ビザなし交流」は北方4島のロシア人住民と日本人の元島民らが相互訪問する事業。最近では09年夏に、北方領土問題解決促進特別措置法改正案が国会で可決成立したことに反発したロシア側の都合で一時中止されたことがあった。
92年4月から始まった日本国民と北方4島に住むロシア人住民との相互訪問による交流は、今年で23年目になる。この交流は旅券(パスポート)、査証(ビザ)なしで外務大臣の発行する身分証明書などによって渡航が認められることから「ビザなし交流」と呼ばれている。
この交流事業に関する日本側の認識は、「相互理解の促進を図り、4島返還による北方領土問題解決のための環境づくり」である。旧島民の定期的な墓参にも役立てられた。
一方、ビザなし交流によって、「日本人がロシア領北方4島に観光旅行することを促し、それによって北方4島の経済振興を図る」というのが、ロシア側の基本姿勢だといわれる。
昨年度までの相互訪問の実績を見ると、日本側の訪問は、合計313回、1万2023人。ロシア側からの訪問は213回、8592人となっており、合計で526回にわたり2万人以上の両国民がこの事業に参加した。
4島在住のロシア人訪日団に関しては、単に北海道にとどまらず、関東、関西周辺さらには沖縄まで足を延ばす観光・買い物旅行のケースが少なくなく、「ビザなし交流」も限界に来たのではないかといった見直し要求の声もすでに出始めている。
北方領土問題に詳しい専門家によれば、今回、ロシアが最初中止を通告した理由として、ウクライナ危機をめぐる欧米による対露制裁の追従、先のモスクワでの対独戦勝利70周年記念行事欠席、さらには6月のG7サミットのあと、その足でウクライナを訪問する予定など安倍首相の対露外交姿勢への反発の意思を示したものと推測されるという。
ロシアは北方領土を含む千島列島(クリール諸島)で9月に第2次大戦の戦勝記念式典を開催する予定だという。ロシアは日本が第2次大戦の降伏文書に調印した9月2日を、「第2次大戦終結の日」として制定。極東各地で事実上の「対日戦勝記念日」の式典を開いている。
実効支配正当性強調か
今年は、節目の年であり、式典では、北方4島を既に70年間実効支配してきたことの合理性、正当性が強調されるものとみられている。
(5月25日付社説)