追い込み漁禁止、逆風乗り越え伝統漁法守れ
日本動物園水族館協会(JAZA)は、「追い込み漁」による野生イルカの調達を禁止することを決めた。先月、世界動物園水族館協会(WAZA)が、追い込み漁を倫理規定に反するとしてJAZAの会員資格を停止し、1カ月以内に改善しなければ除名すると圧力を掛けていた。WAZAはこの決定を歓迎している。
反捕鯨団体が働き掛け
追い込み漁によるイルカの調達をやめてWAZAに残留するか否かを、JAZA加盟の動物園89園と水族館63館の計152施設で投票。残留が99票で、離脱が43票だった。WAZAを除名されれば、希少動物の共同繁殖や動物交換ができなくなることからの苦渋の選択である。
2012年の時点で国内の水族館で飼育されていたイルカは287頭、うち240頭前後が野生のイルカだった。その大半は和歌山県太地町の追い込み漁で捕獲されたイルカという。
今後、イルカの調達は、人工繁殖に頼らざるを得なくなる。人工繁殖は一部の水族館で行われているが、成功率が非常に少ないのが現状だ。妊娠から出産まで1年前後かかる上、1度に生まれるのは1頭だけ。12年に国内で人工繁殖されたイルカはわずか31頭で、このうち半年以上生きたのは11頭のみという。
水族館のイルカショーは子供たちの人気の的で、集客の目玉だ。今後、急にイルカが減るということはないにしても、他の水族館で人工繁殖を進めてゆくためには、専用のプールやスタッフが必要となる。水族館の経営を圧迫することになろう。
WAZAは、2004年の年次総会で追い込み漁で捕獲されたイルカを水族館が入手することについて非難決議を採択。2009年には、食用と展示用の漁を分けるなど提案し、太地町もそれに応えている。
しかし、欧米の反捕鯨団体のWAZAへの強い働き掛けで、追い込み漁禁止かWAZA除名かの二者択一を迫られる形となった。反捕鯨団体は、太地町のイルカ追い込み漁のドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(2009年)などを作り、批判キャンペーンを展開してきた。WAZAが、追い込み漁を非難する理由は、「残酷で手段を選ばない方法」というものだ。しかし、「追い込み漁のどこが残酷なのか」というJAZAの問いには答えていない。答えるまでもないというより論理的に答えられないのだろう。
動物愛護は、それぞれの民族の文化や伝統によって、それぞれの形を持つ。その民族とその動物が歴史的に育んできた関係から規定されるものだ。生物多様性のような科学的問題ではなく、極めて文化的なものだ。欧米を中心とした動物愛護観を押し付けるのは間違っている。
JAZA加盟の水族館の中には、将来的にJAZAの脱会を選択肢に入れている所もある。脱会した水族館同士で、今後協力していくことも一案だろう。太地町からイルカを輸入している中国や韓国の水族館はWAZAに加盟していない。
反捕鯨運動の独善性
何よりも一番の打撃を受けるのは太地町だが、反捕鯨団体や同調者に、その独善性を自覚させるためにも、伝統漁法を守り続けてほしい。
(5月24日付社説)