福知山線事故10年、安全性向上に不断の努力を


 兵庫県尼崎市で乗客106人と運転士が死亡し、562人が負傷したJR福知山線脱線事故から10年が過ぎた。

 事故を起こしたJR西日本は「安全軽視」「利益優先」と批判を浴びた。事故の教訓を胸に刻み、安全性向上に不断の努力をすべきだ。

 速度超過でカーブに進入

 事故は10年前の2005年4月25日に発生した。福知山線の塚口-尼崎間で、快速列車が制限速度を大幅に超える時速約115㌔でカーブに進入して脱線、線路脇のマンションに激突した。国鉄民営化後最悪の事故で、現在も後遺症に苦しむ被害者は多い。

 事故の背景には「利益優先」と言われた企業体質があった。福知山線は度重なるダイヤ改正で所要時間を大幅に短縮。制限速度ぎりぎりで走行しなければ定時運転ができない状態だったという。一方、自動列車停止装置(ATS)など安全設備への投資は後回しにされた。

 企業が効率的な経営を追求するのは当然だが、公共交通機関である以上、安全確保が大前提だ。JR西はこのことを改めて肝に銘じ、再発防止を徹底しなければならない。

 また、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(当時)は07年6月、事故の原因について「運転士が日勤教育を懸念するなどして、注意が運転からそれた可能性が高い」とする最終報告書をまとめた。

 ミスをした乗務員に課す「日勤教育」は、草むしりやマニュアルを繰り返し書き写すなど懲罰的な色合いが濃かった。報告書は「逆に事故を誘発する恐れがある」とし、JR西の安全管理体制を強く批判した。

 事故をめぐっては、JR西が現場を急カーブにする工事をした当時、鉄道本部長だった山崎正夫元社長が業務上過失致死傷罪で在宅起訴されたほか、歴代社長の井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の3氏も検察審査会での2度にわたる起訴相当議決を経て同罪で強制起訴された。

一連の裁判では、現場カーブの危険性の認識(予見可能性)やATSの設置を指示する義務の有無(結果回避義務違反)などが争点となった。山崎元社長は12年1月、神戸地裁の無罪判決が確定。井手氏ら3人も13年9月の一審、今年3月の二審とも無罪となり、指定弁護士が上告している。

 裁判の判決がどうであれ、JR西は今後も安全性向上と企業体質改善に努め、信頼回復に全力を挙げるべきだ。

 JR西は事故現場を含む京阪神近郊路線のATS設置などハード面の整備や、安全教育を実践的な内容にするなどの改善を進めてきた。しかし、事故後に入社した社員が既に3分の1を超えている。

 そこで、研修センターに設置された福知山線事故などの資料を集めた「鉄道安全考動館」で全社員に定期的に研修を受けさせ、事故やリスクの大きさを改めて実感させるようにしているという。

 風化させない取り組みを

 遺族の悲しみや被害者の苦しみに向き合いながら、事故を風化させない取り組みを続けることが必要だ。

(4月26日付社説)