北方領土交渉を停滞させているのはロシアだ
ロシアのプーチン大統領は、北方領土交渉の停滞は日本側に原因があると述べた。日本は交渉進展のために真摯(しんし)に取り組んでおり、看過できない発言だ。
プーチン氏が日本を批判
プーチン大統領は毎年恒例の「国民とのテレビ対話」終了後、会場の外で記者団に囲まれて懇談に応じた。この中で、対日平和条約交渉について質問が出された。
「日本との領土交渉では『勝者も敗者もない“引き分け”の原則』で解決することで日本の首相と合意したことがあるようだが、(ウクライナ南部)クリミア(併合)との関連で、この問題についてあなたの考えは変わったか? 何が今、問題なのか?」と聞かれた大統領は「日本との平和条約、領土問題に関する我々の立場は何も変わっていない」と述べた。
さらに「クリミアには住民投票でロシアへの再併合に賛成した住民が住んでおり、彼らの選択は尊重されなければならない」と強調。「ご指摘の島々については、日本との統合には賛成しそうにない人々が住んでいる。これが第2次大戦の結果と結び付いた絶対的な別の状況だ」と指摘した。
そして北方領土交渉について「日本の議会も批准した有名な56年宣言を基礎に、話し合う用意がある。しかし今日、我々の対話は、日本側のイニシアチブで事実上、停止している」と言明した。
この発言に対して、岸田文雄外相は「日露平和条約締結交渉を日本側が止めている事実は全くない」と直ちに反論。今年2月にモスクワで開催した日露外務次官級協議で「日本側から積極的に平和条約締結問題を提起し、その必要性を議論した」と強調し、「ロシアが真剣に交渉に取り組むことを期待する」と述べた。
日露両国は2013年4月の共同声明で、双方に受け入れ可能な解決策を作成する交渉を加速化させる点で合意している。ロシアは交渉のテーブルに着くべきだ。
だが、ロシア外務省は岸田外相の反論に「岸田氏の訪露さえ、日本政府は1年以上決断できていない」と強く反発し、交渉を止めているのは日本側であるとの認識を重ねて強調した。また、2月の次官級協議に関して「平和条約交渉のテーマで、中身のある話し合いを予見するものではなかった」と主張した。
菅義偉官房長官は「外交ルートを通じて(交渉を進めるよう)積極的に申し入れを行っている」ことを明らかにした。プーチン発言の裏には欧米と協調して対露制裁を行ってきた日本への不満が潜んでいるとみられ、ロシア側が制裁と切り離して日本との領土交渉を本気で進める意図があるかどうか疑わしい。
「力による変更」を許すな
北方領土問題は日本にとって極めて重要であり、交渉進展に向けて全力を挙げることは当然だ。もっとも、北方領土は「力による現状変更」によってロシアに不法占拠されている。クリミアも同様であり、だからこそ我が国はウクライナを見捨てることはできない。領土交渉をエサに制裁緩和をもくろむロシアの術中にはまってはならない。
(4月23日付社説)