信頼回復へ精神保健指定医の審査体制強化を


 聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)の医師による専門医資格の不正取得問題で、厚生労働省は診察していない患者のリポートを提出したとして、同病院に所属していた医師11人と指導医9人の計20人について、精神保健指定医の指定取り消しを決めた。

 指定医は患者の行動を制限する強い権限を持つ。指定の審査体制を強化するなど再発防止に向けた取り組みを進め、信頼回復を急がなければならない。

 11人が資格を不正取得

 精神保健指定医は精神保健福祉法に基づき、厚労相が指定する。自分や他人を傷つける恐れのある患者の強制入院や行動制限を決めるのに必要な資格だ。精神科医として3年以上の実務経験があるなど高い専門性を身に付けていることが指定の要件となる。全国に約1万5000人いる。

 医師11人は、他の医師から受け取った症例データを一部書き換えて申請時のリポートにしていた。同じ症例の「使い回し」も行われていたという。11人は厚労省の聴取に「病院内の会議で情報を共有していたので症例に加えたが、認識が甘かった」と述べた。

 医師としての資質に問題があると言わざるを得ない。患者や家族の信頼を大きく損なうものであり、実際に担当した患者かどうか確認を怠った指導医9人を含め、指定を取り消すのは当然のことだ。

 塩崎恭久厚労相は「医師のモラルに関わる大変残念で遺憾なケース」と述べ、病院に詳しい報告を求めるとともに厳正に対処する考えを示した。

 資格を不正取得した医師は4人の措置入院と約100人の医療保護入院の判定に関わったという。こうした医師によって患者の人権を制限する重大な決定が行われたのかと思うと慄然とする。

 患者側からは不安の声が出ている。病院は判定が正しかったのか十分に検証し、丁寧に説明する必要がある。指定医への信頼が揺らげば患者の治療にも支障を来しかねない。精神医学界を挙げて再発防止に力を入れるべきだ。

 厚労省は過去5年間に指定された2466人の申請書類についても、不正がなかったか調べる。今後、類似のリポートを判別できるように指定医が申請の際に提出した症例のデータベース化も行う。不正根絶に全力を尽くしてもらいたい。

 指定医は通院患者の初診では一般の精神科医より1・5倍高い診療報酬が設定され、指定医がいる病院への報酬加算措置もある。

 病院側は11人の外来診療に上乗せされた診療報酬約170万円を返還する方針を示したが、他の病院でも同様の不正がなかったか徹底的な調査が求められよう。

 問題の背景には、指定のための審査が形骸化していることもある。再発防止のため、書面だけでなく対面審査を行うなど体制強化が欠かせない。

 患者本位の医療提供を

 再発防止には何よりも、全ての精神科医が原点に立ち返って患者本位の医療提供に努めることが必要だ。

(4月22日付社説)