出国禁止解除、日韓和解へ機運高める契機に


 昨年8月に書いたウェブ版コラムで韓国の朴槿恵大統領の名誉を毀損したとして在宅起訴され、現在、公判中の産経新聞の加藤達也前ソウル支局長に対する8カ月に及んだ出国禁止措置がようやく解除された。韓国の決定は遅きに失した感があるが、ひとまず加藤氏の帰国が実現したことは喜ばしい限りだ。

 わずかながらも事態動く

 コラムは、ちょうど1年前の昨年4月16日に韓国南西部沖で大型旅客船セウォル号が沈没した際、朴大統領が元側近と密会していた可能性を示唆した韓国大手紙の記事などを引用し、大惨事の最中に大統領がどこで何をしていたか問題提起されること自体が朴政権の求心力低下を物語るものだという趣旨の内容だった。

 韓国検察当局が起訴に踏み切った背景には、当初から朴政権発足後の日韓関係悪化や同紙が韓国に批判的な論調を展開していたことなどがあったとする見方が浮上していた。

 言論の自由や大統領など公人中の公人に対する言及への名誉毀損罪適用は最小限であるべきという国際的通念に照らし合わせても、起訴は明らかに逸脱行為だった。やはり法論理より政治判断に左右されたのか、との思いは未だに拭えない。

 移動の自由を奪う長期にわたる出国禁止に至っては、さらに国際社会を驚かせた。検察は証拠を十分確保していた。加藤氏の社会的立場から考え逃亡の可能性も極めて低い。公判日には出廷することを再三にわたって約束していたにもかかわらず、人権問題に発展しかねない出国禁止になぜ固執したのか。

 出国禁止解除は歓迎すべきことだが、消極的な理由によるものだったとすれば残念だ。仮に出国禁止をさらに3カ月延長した場合、今月末からの安倍晋三首相の訪米時にこの問題で日米両国が懸念を共有する可能性があった。6月22日の日韓国交正常化50年という節目に水を差す恐れもある。米国や国際社会に「努力」をアピールするのが狙いという指摘も上がっている。

 それよりも韓国にはもっと根本的な部分に目を向けてほしい。外務省がホームページで韓国との関係についてこれまで「基本的な価値を共有」としていた表現を削除した。加藤氏に対する出国禁止解除を求めた日本政府の要請を無視し続けたことが招いた結果と言える。

 とはいえ、日韓間の新たな火種となっていたこの問題で、わずかながらも事態が動いたのは幸いだ。

 日本で嫌韓感情、韓国で反日感情がそれぞれかつてなく高まり、関係改善の糸口さえつかめないという重たい現実がある一方、経済協力や民間交流を中心に緊密な関係を維持しようと願う人たちも多い。全体を見渡し、何が国益にかなうか冷静な判断が問われてくる。

 首脳会談までこぎつけよ

 これまで安倍首相と朴大統領は国際会議などの場を利用し、短時間ながら会話を交わしてきた。信頼関係を十分築いたとは言い難いが、意思疎通の努力はみられる。今回の出国禁止解除を和解の「芽」として育て、さらに機運を高めて首脳会談開催までこぎつけてみてはどうか。

(4月16日付社説)