総連トップ捜査、拉致交渉進展につなげよ


  在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)トップの許宗萬議長が都内の自宅を家宅捜索された。北朝鮮がこれに反発するのは必至で、日本人拉致問題をめぐる日朝政府間交渉への悪影響を心配する声も聞かれるが、交渉進展のためにも圧力が有効であることを忘れてはなるまい。

日本の国益に反する不正

 許議長の自宅が家宅捜索されたのは、平成22年に北朝鮮産のマツタケ約1200㌔を中国産と偽って不正に輸入した事件に関わったと捜査当局が判断したためだ。この事件では、韓国籍の食品会社社員2人が外為法違反の容疑で逮捕された。

 日本は北朝鮮に対する経済制裁の一環としてぜいたく品の輸出入を全面禁止しており、マツタケはこれに該当する。北朝鮮としては外貨獲得が目的だったとみられるが、仮に朝鮮総連トップがこれに関わっていたとすれば大きな問題だ。

 朝鮮総連は過去、組織的に北朝鮮への送金を行っただけでなく、拉致の幇助など各種の工作に携わってきたとされ、何かと物議を醸してきた。トップが日本の国益に反する形で不正に関与したとなれば、改めて疑念の目が向けられることになる。

 許議長は今回の家宅捜索を「暴挙だ」として反発し、このことで日朝関係が悪化した場合は「日本政府の責任」になると述べた。まるで北朝鮮の機嫌を損ねるような真似はするなとでも言わんばかりだ。

 こうした許議長の発言が、拉致問題をめぐる日朝交渉を念頭に置いているのは明らかだ。許議長は昨年9月、日本政府による独自の対北制裁の一部解除を受け、約8年ぶりに訪朝した。日朝両国を橋渡しする裏のキーマンとも言われていた。それだけに捜査が自らに及んだことに憤りを覚えたのかもしれない。

 現在、日朝交渉は行き詰まりを見せている。日本は昨年10月、北朝鮮側から拉致問題などの調査の進捗具合に関する説明を受けるため、外務省担当者を平壌に派遣し、改めて拉致問題解決が最優先課題であることを伝えたが、北朝鮮の特別調査委員会がどこまで真剣に取り組んでいるかは疑問だ。

 だが、日本は北朝鮮を「刺激しない」ように気を配るのではなく、「動かす」ための努力をしなければならない。安倍晋三首相は北朝鮮による拉致問題で「対話と圧力、行動対行動の原則」を重視していると再三にわたって強調してきたが、朝鮮総連トップへの家宅捜索は「圧力」となるのは間違いない。

 拉致問題をめぐる日朝交渉の行方と関連し、朝鮮総連中央本部の競売問題がもたらす影響も大きな関心を集めている。最終的に朝鮮総連が買い戻す可能性が浮上しており、日本が北朝鮮に譲歩したとも受け止められる。一筋縄ではいかない北朝鮮のような国を相手にする場合、硬軟織り交ぜた対応が必要になってくるのも事実だ。

北朝鮮の「泣きどころ」

 北朝鮮にとって朝鮮総連は政治的にも経済面でも重要な存在であり、裏返せば「泣きどころ」でもある。日本はこの点も十分踏まえた上で、最終的に拉致をはじめとする諸懸案の解決につなげなければならない。

(3月29日付社説)