チュニジア襲撃、テロ封じ込めへ幅広い対策を


 北アフリカのチュニジアの首都チュニスにある博物館で軍服姿の武装集団によるテロ事件が発生し、日本人3人を含む多数の外国人が犠牲となった。

 犠牲者の冥福を祈るとともに、日本政府にテロの防止と封じ込めに向け、各国と協力して多角的な視点で対応策を検討するよう求めたい。

日本人3人が犠牲に

 邦人の犠牲者は大学の卒業式を終えた娘と母、孫が生まれたばかりの女性ら地中海クルーズを楽しんでいた人々だ。卑劣で残忍な行為を決して許すことはできない。

 2011年以降に広がった民主化運動「アラブの春」で、チュニジアは比較的成功を収めた優等生とされていたが、中東地域共通の現象である若者の閉塞感の高まりが今回のテロ事件の引き金になったとみてよい。

 武装集団は攻撃に際して「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだ。厳格なイスラム法解釈による根本主義的な統治を目指す過激派組織「アンサール・シャリア」による犯行とみられている。彼らはチュニジアの政治体制の転覆を狙っており、主要産業の観光に打撃を与えることで体制を揺さぶろうとしたと考えられる。

 チュニジアは北部や東部が地中海に面し、古代遺跡が豊富なことから観光業が主要な外貨獲得手段となっており、国内総生産(GDP)の15%を占めるとの統計もある。

 しかし、中東・アフリカ地域では過激派が政府に圧力を掛けるため外国人観光客を攻撃する例が多い。エジプトでは1997年、南部の観光地ルクソールで、日本人旅行者10人を含む60人が殺害された。今回の事件を受け、クルーズ船を運航する大手2社がチュニスへの寄港を当面取りやめると発表。すでに観光業への打撃が現実のものとなっている。

 チュニジア政府は軍に対し、兵士を大都市の重要施設に配置して治安維持に当たらせる考えを示した。だが、一度損なわれた安全性への信頼を回復することは容易ではない。そのために経済回復が遅れれば、若者の不満がさらに高まり、過激派が勢いを増して政治不安が高まるという悪循環に陥る危険がある。

 イラクやシリアの一部を実効支配する過激派組織「イスラム国」には、外国人戦闘員として最大規模の約3000人のチュニジア人が参加している。

 「イスラム国」に共鳴する過激派組織がリビアやナイジェリアなどで活動を活発化させており、いつチュニジアにテロの波が広がってもおかしくない状態だった。

 過激派対策について話し合う閣僚会合が先月、日本を含む60カ国以上が参加して米国で開かれ、若者を引き付ける過激思想の拡散を防ぐための情報共有や地域社会との連携で合意した。

教育充実と貧困解消を

 テロ封じ込めには多角的で幅広い総力戦が不可欠だ。「イスラム国」弱体化のための軍事作戦強化は当然必要だが、それとともに教育の充実と貧困の解消を息長く進めることを忘れてはならない。

 この面で、わが国の役割は重要だ。

(3月21日付社説)