サリン事件20年、テロ対策の甘さ猛省せよ


 地下鉄サリン事件からきょうで20年を迎えた。オウム真理教が引き起こした同事件は史上初めての都市型の生物化学(NBC)テロで、死者13人・負傷者6000人以上という途方もない数の被害者を出した。

 今なお多くの人々が後遺症に苦しめられている。元信者、高橋克也被告の裁判はまだ続いている。教団は名前を変えて存続し、首謀者の教祖、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚を崇拝する動きすらある。事件は決して終わっていないと肝に銘じておくべきだ。

 オウムは名称変えて存続

 オウム真理教による一連の事件で、これまで松本死刑囚ら教団幹部13人の死刑、5人の無期懲役など189人の判決が確定している。だが、事件の真相が究明されたとは言い難い。松本死刑囚は裁判の途中から「心身の状態」を理由に再三審理を遅延させ、死刑確定後も再審請求を繰り返している。

 また高橋被告の裁判では死刑囚の元幹部らが証言台に立っているが、「証言」には食い違いも多く、真実をすべて語っているとは到底思われない。しかも、一連の事件で死刑は一人も執行されておらず、法の運用は厳正さに欠けている。

 国際社会ではテロ集団は組織的に壊滅し、再発防止に厳格に臨むのが常識だ。大半の国は教団をアルカイダと同列の「国際テロ集団」と規定して組織的活動を完全に禁止し、入国などに目を光らせている。

 当事国であるわが国としてはより一層、厳しい姿勢を示すべきで、本来は破壊活動防止法を適用すべきだ。破防法はテロなどの破壊活動で国家転覆を図り、国民の生命と財産を奪おうとする集団に用いる。その集団を解散させ、活動を完全に封じ込めるためのものだ。

 団体解散の適用条件として破壊活動の組織性、政治性、将来の危険性の三つを挙げているが、いずれも教団に該当したはずだ。組織性は言うまでもなく、政治性も東京地裁判決は「救済の名の下に日本国を支配しようと考えた」と認定している。

 また教団の一部に「麻原回帰」が見られ、殺人を正当化した「ポア」の教義を放棄したのかも不透明で、将来の危険性は常に付きまとっている。

 ところが破防法を適用せず、わざわざ別に団体規制法を作って「観察処分」とするにとどめた。それでオウム真理教から名称を代えた「アレフ」と「ひかりの輪」が活動を続けている。他国では考えられない甘さだ。

 世界で最初に化学兵器テロを許した国でありながら、厳しい対応を躊躇(ちゅうちょ)し、禍根を残したと言わざるを得ないだろう。

 想起すべきは、国際社会ではテロを全面戦争に次ぐ「低烈度紛争」と捉え、軍を全面的に出動させて対策に当たるということだ。わが国にはそうした法制度も態勢もない。テロ対策の基本となる情報収集についても本格的な情報機関を持たない。

 態勢作りを熟考すべきだ

 地下鉄サリン事件から20年を経て、今なおテロ対策は不十分極まりない。これでは犠牲者に申し訳が立たない。対策の甘さを猛省し、態勢作りを熟考すべきだ。

(3月20付社説)