石像破壊、許されない過激派の蛮行


 過激派組織「イスラム国」がイラクの博物館で石像を次々と破壊する映像を公開した。

 自らの価値観を押し付け、貴重な文化財を破壊することは許されない。国際社会は同組織の壊滅に向け、協力を強めなければならない。

映像をネット上に公開

 インターネット上に公開された映像には、男たちがイラク北部モスルの博物館で石像を引き倒して粉砕したり、ハンマーでたたいて破損させたりする様子が映し出されている。

 破壊されたものの中には、紀元前数世紀にさかのぼるアッシリアやヘレニズム時代の文化財や、古代都市ハトラの遺跡から発見されたものなどもあるという。国際社会共通の財産だと言っていい。

 男の一人は、収蔵品について「昔の人々が崇拝した偶像だ」と主張。預言者ムハンマドは偶像をなくすよう命じたと訴え、破壊を正当化した。しかし、イスラム世界ではエジプトのスフィンクスのように過去の文化遺産は保護されるのが一般的だ。こうした行為は信仰や信条に関わらず、決して容認できるものではない。

 「イスラム国」はイラクやシリアで勢力を拡大し、日本人など外国人人質を残虐な手法で殺害した。またイラクのクルド系少数派ヤジディ教徒を大量殺害したり、女性を奴隷にしたりするなどの迫害を加えている。

 キリスト教の一派コプト教徒のエジプト人21人を斬首した映像公開の際には「イスラム教徒への迫害を続けてきたキリスト教徒への復讐」と一方的に主張した。独り善がりで非道極まりない。

 「イスラム国」が今回、映像を公開した狙いは、組織内外の過激派を破壊行動に駆り立てることだとみられるが、イスラム世界からの孤立を深めるばかりだろう。自らの価値観を押し付け、蛮行を正当化することはできない。

 今回の問題について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)のボコバ事務局長は、国連安全保障理事会の緊急会合開催を求めた。ボコバ氏は声明の中で「単なる文化財に対する悲劇という話ではない。もはや安全保障に関わる問題だ」と訴えている。

 イスラム過激派による文化財破壊は今回だけではない。タリバンは2001年3月、アフガニスタン中部のバーミヤンにある巨大石仏像2体を破壊した。この時は、イスラム諸国会議機構(OIC)やイスラム法学の最高権威であるエジプトの宗教指導者が中止を求めたが、タリバンは聞き入れなかった。米国で同時多発テロが発生したのは、この半年後だ。

壊滅への取り組み強化を

 「イスラム国」は石油関連施設に対する米軍の空爆で、有力な資金源だった石油の密売で収入を上げることが難しくなっていると指摘されている。一方、北アフリカのリビアでも本格的な活動を始めるなど勢力圏を拡大させている。ナイジェリアを拠点とする「ボコ・ハラム」など「イスラム国」を支持する他のイスラム過激派もある。

 国際社会は、こうした過激派の壊滅に向けた取り組みを強化する必要がある。

(3月1日付社説)