米安保政策、歴代長官の批判に耳傾けよ


 米国の第25代国防長官に就任したアシュトン・カーター氏は「米国や世界の安全保障にとって、大統領が最善の決断をできるよう支えていく」と決意を述べた。実務派の国防副長官としての実績がある。中東や北アフリカで影響力を広げる過激派組織「イスラム国」との戦いや、停戦合意の後も戦闘が続くウクライナ情勢などで、早急な対応を迫られることになる。

オバマ大統領への不満

 オバマ米政権の6年間で、ゲーツ、パネッタ、ヘーゲルという3人の国防長官が辞任した。これはオバマ大統領の外交安全保障政策への不満によるところが大きい。ゲーツ、パネッタ両氏は回顧録で、大統領に断固たる行動力がないことを強く批判している。

 2011年にシリアの反体制運動が激化し、米軍がイラクから撤収した。いまやシリア、イラク両国はイスラム過激派テロリストの拠点になっている。その責任のかなりの部分は、両国の情勢変化に目をつぶってきたオバマ大統領にある。

 オバマ大統領は12年、シリアのアサド大統領が内戦で化学兵器を使用すれば、米国は軍事介入に踏み切る「レッドライン」発言をした。アサド大統領は実際に使ったが、米国は武力行使を躊躇(ちゅうちょ)し、ロシアが外交的解決を提案すると渡りに船とばかりに同調した。

 これは米国の信頼と威信を国際的に大きく損ねた。米国が軍事介入を回避し、シリアの内戦が長期化する中で、反体制派の中でのアルカイダなど過激派の勢力が拡大していった。パネッタ氏の回顧録『価値ある戦い』によると、パネッタ氏のほか、当時のクリントン国務長官、ペトレアス中央情報局(CIA)長官らがシリアの反体制穏健派に武器供与する計画を支持したが、オバマ大統領は逡巡し行動を起こさなかった。

 ゲーツ氏は回顧録『任務』で、オバマ大統領はアフガンに関する自らの戦略に自信が持てず、最初から撤退したいと考えていたことを明らかにしている。また、オバマ政権の政策決定の中核となる考えが、世界に対する米国の関与を抑え、安全保障への支出を削減し、それを国内政策に充当することにある、と指摘している。

 パネッタ氏は回顧録で「オバマ政権はイラクで米兵を残留させずに失敗した」と明言した。また「もし米国がリーダーシップを発揮しなければ、他のどの国も代役はできない」「政府も大統領も、世界のどの場所であろうと空白を放置できないことを認識した。放置すれば、そこは間もなく制御不能となり、わが国の安全保障を脅かす」と述べている。シリア、イラクでパネッタ氏が指摘している通りのことが起きてしまった。

 ヘーゲル氏は在任中、オバマ政権のシリア政策を批判する書簡をホワイトハウスに送った。長官辞任は、政権の安全保障チームの足並みの乱れが露呈したとしか言いようがない。

過激組織の掃討強化を

 米国にとって「イスラム国」の脅威は、01年当時のアルカイダを上回るとされている。軍の最高司令官オバマ大統領は掃討を強化すべきだ。

(2月22日付社説)