実効ある高齢ドライバーの事故対策が不可欠だ


 認知症に起因する交通事故を減らすため、警察庁は75歳以上のドライバーに対するチェック体制を強化する。悲惨な事故防止に向け、実効性のある対策が不可欠だ。

 認知症チェックを強化

 道路交通法は認知症の人に運転免許を認めておらず、75歳以上の免許更新者に認知機能検査を義務付けている。症状の疑われる結果が出た人は、過去1年以内から次の更新までに一定の違反があった場合、医師の診断が必要だ。

 しかし現在は、検査は3年に1度にとどまる。疑いがあっても運転を続けることができ、違反した後になって認知症か否かを確定させる仕組みだ。

 警察庁によると、2013年に検査を受けたのは約145万人。このうち3万4716人が「認知症の恐れ」と判定された。だが実際に医師に診断されたのは524人にすぎず、最終的な免許の取り消し・停止は118人だった。

 認知症にかかった高齢ドライバーの多くが、診断を受けずに運転を続けているとみていいだろう。「認知症の恐れ」と判定された後の運転で事故につながるケースもあり、13年には少なくとも7件の死亡事故が確認されている。80歳代の男性が軽乗用車で首都高速道路を逆走し、大型トラックに衝突して死亡した先月の事故では、男性の家族が「認知症だった」と説明したという。

 認知機能が低下すると、運転の際に行き先を忘れる、交通ルールを無視する、脇見をしたりハンドル操作が遅くなったりするなどの状況に陥る。13年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数で、75歳以上は75歳未満の約2・5倍に達する。高速道路の逆走も半数近くは75歳以上によるものだ。

 通常国会に提出予定の道交法改正案では、免許更新時だけでなく信号無視や逆走など一定の違反をした際にも検査を実施する。「認知症の恐れ」と判定された人にはすぐ、医師の確定診断を受けてもらう。認知症と診断されたり、検査を受けなかったりすると免許は取り消し・停止される。

 14年の交通事故死者数は4113人で、14年連続の減少となった。4000人未満に減らすことが次の課題だと言えよう。そのためにも、認知症のチェック強化は妥当な取り組みだ。

 ただ、買い物や通院などに車を利用する高齢者は多い。こうした人たちが運転できなくなった場合、生活の足を確保することが欠かせなくなる。

 認知症でなくても、加齢によって運転技能は低下する。多くの自治体では、免許を自主返納した高齢者に対し、バスやタクシーの利用券配布などを行っている。

 返納の証明書を提示すれば、商品やホテルの宿泊料の割引、信用金庫の金利優遇などを受けられるサービスもある。こうした取り組みを周知し、さらに進めていきたい。

 コンパクトな街づくりを

 将来的には、車を持たない高齢者に配慮したコンパクトな街づくりも課題となる。これは、安倍政権が看板政策に掲げる地方創生にもつながるはずだ。

(2月20付社説)