人質交換要求、無法なテロ組織に屈するな


 過激組織「イスラム国」によるとみられる邦人人質事件で、ジャーナリストの後藤健二さんとヨルダンで収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚との交換を求める新たな画像がインターネット上に投稿された。「期限は24時間」と通告している。

 およそ「イスラム」の名に値しない卑劣で許し難い行為だ。強く抗議するとともに、改めて後藤さんの即時解放を求める。日本政府はテロを憎む国際社会と連携し、救出に全力投球すべきである。

 「期限は24時間」と通告

 「イスラム国」は宗教を隠れ蓑(みの)にした単なるテロリスト集団だ。邦人人質事件では最初、身代金2億㌦を72時間以内に支払わなければ後藤さんと湯川遥菜さんを殺害すると脅迫する動画が公表された。その後、湯川さんが殺されたとされる画像で、犯行グループは身代金の代わりにリシャウィ死刑囚の釈放を後藤さん解放の条件とした。自分たちの要求を通すために平気で人命を奪うテロリストに強い怒りがこみ上げてくる。

 今回投稿された画像では、後藤さんとみられる人物が「イスラム国」に拘束されているヨルダン軍のパイロットと思われる男性の写真を持っている。音声メッセージで「私には24時間しか残されていない。パイロットにはより短い時間しかない」と述べ、後藤さんとリシャウィ死刑囚との交換を求めた。死刑囚を速やかに釈放しなければ、後藤さんもパイロットも殺害されるとの警告だ。犯行グループに無理に言わされたとみていい。

 繰り返される脅迫で、家族の心労は極限に達していよう。あまりにも卑劣で冷酷な行為を断固非難する。

 後藤さんの母、石堂順子さんは「イスラム国」に「いつも中東の子供たちのことを案じていた。健二は敵ではありません」と呼び掛けた。これ以上、人質を殺害してはならない。

 音声メッセージでは、家族と日本国民に対してヨルダン政府に最大限の圧力を掛けるよう日本政府に促すことを求めている。だが、今回のテロは日本および自由世界への許し難い挑戦だ。リシャウィ死刑囚は多くの犠牲者を出した自爆テロに関与しており、釈放は超法規的な措置となる。ひとたびテロリストに屈すれば“甘い”とみられ、次々と要求を出してくるだろう。それが彼らの常套(じょうとう)手段である。

 その点、忘れてならないのは1977年のダッカ事件だ。政府は日本赤軍の要求に応じて収監中の活動家たちを釈放した。日本がテロに屈した例として、自由世界の顰蹙(ひんしゅく)を買った。この苦い経験を教訓として「テロに屈せず」の基本姿勢を今後とも貫くことが求められる。

 テロに対抗するには反テロの国際連帯が何よりも必要だ。テロリストは自由世界の“輪”の一番脆弱(ぜいじゃく)なところを狙ってくる。その意味で、オバマ米大統領が安倍晋三首相との電話会談で日本と連帯する意向を示した意義は大きい。両首脳はテロに屈せず、世界の平和と安定のため協力することを確認した。

 日本の決意問われる

 今回の事件は日本政府にとって対テロ戦への決意を国際的に問われる試金石だ。

(1月29日付社説)